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「天郷醸造所」製造責任者
福岡県福智町「天郷醸造所」で製造責任者を務める上田竜志さん。20歳の頃に日本酒の美味しさに魅了されて以来、日本独自の文化ともいえる酒造りの世界を歩んできた。現在は、日本酒の技術をベースに、フルーツやハーブを取り入れたクラフト酒造りに挑戦中。伝統を大切にしながらも、目指すのはここにしかない一杯。より美味しい酒を追い求め、今日も試行錯誤を重ねている。
これまでの歩み
地元・広島で「八幡川」という日本酒に出会い、その美味しさに衝撃を受ける。酒造りの仕事に携わりたいと考え始めるきっかけに。
旭酒造における基本の酒造りと酒造りにおける衛生管理を学ぶ。ここでの衛生管理の考え方が今でも生かされている。
旭酒造を退職し、約3カ月間ニュージーランドへ。当時は日本に明るいニュースが少なく、重労働で定時に帰れないことも多い酒造りの現場にも疲れ、一度日本を離れたいという思いがあった。
ところが、現地で酒造りから離れて過ごすうちに、消えかけていた情熱が再燃。語学学校で日本酒について尋ねると、知らない人がまだまだ多いことにも驚く。「これだけ知られていないなら、逆に可能性がある」。そう考え、海外にいる間に再び酒造りの世界へ戻ることを決意。
帰国後、永山本家酒造場に入社。「貴」などの酒造りの技術はもちろん、現在にもつながる酒造りへの考え方を学ぶ。酒造りを行わない夏場には、酒屋への営業や配達、イベントへの出店、自社田での田植えなども経験。造るだけではなく、米作りから酒を届けるところまで、酒にまつわる幅広い仕事に触れる。
酒蔵の設計から酒造りのレシピ考案、機器の選定などを責任者として行う。
20代後半、業界で同世代の独立が相次ぐなか、自身も次第に「いつか独立したい」と考えるように。そんなとき、福智町がクラフト酒事業者を募集していることを知り応募するも、結果は落選。しかし、採択された中山氏が酒造り未経験だったことから、町の仲介で二人がつながり、製造責任者として天郷醸造所に加わることに。日本酒とは異なるジャンルへの挑戦に迷いながらも、「挑戦してみたい」という想いで決断した。
醸造所は一から建設された新しい蔵。初めて扱う設備に加え、土地も水も空気もこれまでとは異なり、発酵の条件を一から探っていった。さらにクラウドファンディングの支援者に応えるため、「絶対に美味しいものを造らなければ」という大きなプレッシャーのなか、ゼロからの酒造りをスタート。
上田竜志さんの未来地図
01
現在、福岡県田川郡福智町にある「天郷醸造所」という酒蔵で、製造責任者として働いています。この酒蔵は、福智町が事業者を公募したことから始まった酒蔵です。
ここでは、日本酒の技術をベースに、フルーツやハーブなどの副原料を使ったお酒を造っています。こういうお酒って、味も香りもリキュールっぽくなりがちなんですけど、僕自身はあまりそういうものが好みではなくて。
僕の中では、お酒はあくまで料理と一緒に楽しむもの、という考えが一つの軸としてあります。なので、フルーツやハーブを使っていても、香りが派手になりすぎないようにしていますし、甘くしすぎず、すっきり飲める味わいに仕上げることも意識しています。
世の中で何が求められているかということは、実はそこまで意識していなくて。自分が美味しいと思えるものを軸に、酒造りをしていますね。
02
ただひたすらに、美味しいお酒を飲んでほしい。そして、飲んでくださった方に「美味しい」と言ってもらいたい。その気持ちが一番ですね。
旭酒造の次に働いた永山本家酒造場では、お客さんと直接接する機会がたくさんあったんです。そのとき、自分が関わったお酒を飲んだ方が「美味しい」と言ってくれる瞬間が、何より嬉しくて。当時はまだ製造責任者ではなかったんですけど、それでも自分が造りに関わったお酒を喜んでもらえることが、本当に嬉しかったですね。
03
僕にできることは、お酒を造ることだと思っているので、まずは福智町の方々に「この町にこんなお酒があるんだ」と誇りに思ってもらえるような酒蔵にできたら最高ですね。
これからも、ずっと酒造りには携わっていたいです。今は日本酒や、日本酒の技術をベースにしたお酒が中心ですけど、この先はほかのジャンルのお酒にも挑戦してみたいという思いがあります。あとは、まだぼんやりとですけど、いつか地元の広島に戻れたら、という気持ちもありますね。
上田竜志さんに10のQuestions!
Q1
天郷醸造所で、一番最初のお酒を仕込んだときのことですね。やっぱり「絶対に美味しいものを造らないといけない」というプレッシャーがかなりあって、本当に必死でした。周りが見えなくなるくらい集中していたと思います。
あとになってまわりの人から「あのとき、殺気立ってたよね」って言われて(笑)。自分ではそこまで気づいていなかったんですけど、それくらい夢中になっていたんだなと。
でも振り返ってみると、そこまで本気で打ち込める仕事があることが、すごく嬉しかったんですよね。あのときのことは今でも印象に残っています。
Q2
福岡県久留米市にオープン予定の酒蔵「鍛醸(たんじょう)」さんですね。僕らと同じように、フルーツやハーブを使ったお酒を福岡でいち早く手がけていた酒蔵「リブロム」で、数年間働いていた方が独立して始めるお酒なので、すごくワクワクしています。
そこの酒蔵は、「マッスルブルワリー」というんです。その方が筋トレやボディメイクを本格的にやっていて、大会にも出ているような方なんですよ。だから「鍛醸」と、“鍛”えるという漢字が入っているんです。そういうところも含めて面白いですし、どんな酒蔵になるのか楽しみにしていますね。
Q3
長所は、大して自信がないくせに、新しい場所に飛び込めるところ。
短所は、思っていることがすぐ顔に出るところと、ちょっと声を荒げやすいところ。怒ると言っても今は製造責任者という立場なので、自分が求めているクオリティまで仕事が届いていないと思ったら……という感じです。それで人を嫌いになるとかそういったことはないです(笑)。
Q4
福岡県のうきは市で在来種のお茶の葉を生産されている方にお会いしたこと。とても真摯に向き合っておられて、ものづくりをする人はこうあるべきと個人的に感動しました。またその方がおっしゃっていた「在来種は貴重なものだけど特別なものになってはいけない」という言葉に感銘を受けて。お酒も近年価格の上昇が止まらないですが、本来は生活に寄り添うものだというのが私の考えです。お酒も特別な物になってはいけないと思いましたね。
Q5
掃除に手を抜くこと。
僕は、酒造りの半分は「掃除」だと思っています。酒蔵も食品を扱う工場なので、常に整理整頓されていて、清潔であることが大前提なんです。
酒造りでは、使った道具や設備を洗う作業が本当に多いんですけど、そこで少しでも手を抜いて汚れが残ると、雑菌が繁殖して、お酒の味に影響してしまうこともあります。だから掃除だけは「これくらいでいいか」ではなく、きちんとやろう、というのは徹底していますね。
Q6
今の自分は30点。ギリギリ赤点になるかならないか、だと思っています。
その理由としてはお酒造りの前にまず人間性が未熟だと感じているから。そして、技術も大してないことを自覚しているからです。
Q7
思い立ったが吉日。やらない後悔よりやって後悔。
Q8
世界中のお酒を飲むことです。
日本酒も好きですが、お酒に興味を持ったのはビールがきっかけなので、ドイツに行って本場のビールを飲んでみたい。あとはイギリスのパブとかにも行ってみたいですね。
Q9
世界で一番になること。
Q10
上原浩さんの『純米酒を極める』です。25歳くらいのときに読んだんですけど、酒造りについて一つひとつ理屈立てて書かれていることが、当時の僕にはすごく衝撃的でした。
旭酒造で働いていた頃は、まだ酒造りの経験も浅くて、どこか「作業」として仕事をしていた部分があったんです。でもこの本を読んで、「こういう前提があるから、こうする」というように、ちゃんと理由を考えて酒を造らないといけないんだ、と気づかされました。
とはいえ、僕自身はロジックで考えるのが得意なタイプではなくて(笑)。「なんとなく、こうしたほうがいい気がする」という感覚で動くことも多いんです。大事なところでは直感も頼りにしつつ、きちんと理屈で考える。その姿勢を教えてもらった一冊ですね。
※本記事の情報は、掲載日もしくは更新日時点のものです。(更新日: 2026年08月24日)
Profile
プロフィール
上田 竜志 / Tatsushi Ueda
「天郷醸造所」製造責任者
広島県出身。旭酒造で酒造りに携わった後、一度その世界を離れ、ニュージーランドへ。現地で日本酒がまだ広く知られていないことを実感し、その可能性に改めて惹かれ、酒造りへの情熱を取り戻す。帰国後は永山本家酒造場に入社し、酒造りの技術や考え方を学ぶとともに、営業やイベント、田植えなど幅広い仕事を経験。2025年より福岡県福智町の「天郷醸造所」に製造責任者として参画。日本酒の技術をベースに、フルーツやハーブなどを取り入れたクラフト酒造りに挑んでいる。
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