Museのロゴ

地域のミューズを発掘するメディア

林義之さん

pin_fill_rounded_circle [#ffffff] Created with Sketch. 三原市

株式会社八天堂ファーム 代表取締役

「まずはやってみる姿勢で、農福連携を持続可能なビジネスへ」

コンサルティング会社を経て食品の企画・製造・販売を行う八天堂へ転職し、「まずはやってみる」姿勢で未経験の事業に挑み続けてきた林義之さん。現場での経験を通じて農業と福祉の課題に直面し、社内ベンチャーとして「八天堂ファーム」を設立しました。農業・福祉・商業を掛け合わせた持続可能なビジネスの構築に取り組み、『ノウフク・アワード2024』準グランプリを受賞するなど、農福連携の実践事例として評価されています。

History

これまでの歩み

2003年 20代

株式会社日本経営在籍時に挫折を味わう

大学時代にお世話になったゼミの教授に憧れてコンサルティング会社を志望し、大阪の医療特化型コンサルティング会社「株式会社日本経営」に入社しました。気合を入れて仕事に臨むも失敗の連続で、3年目にはクライアントからクレームが入り、窮地に追い込まれました。挽回を目指すも糸口が見いだせない日々が続く中、上司や同期に支えられ、次第に成果が出るようになりました。

2011年 30歳

株式会社八天堂へ転職し、未経験の領域に「まずやってみる」姿勢で挑み続けた

日本経営でお世話になった上司の紹介で、八天堂に転職しました。副工場長としてパンの製造工場の現場に入り、30歳にして知らないことばかりの中、若いスタッフに教わりながら仕事を覚えていきました。前職での挫折経験があったからこそ、意地を張らず学ぶ姿勢を貫けたと感じています。

また現代表・森光孝雅との出会いも大きく、看板商品『くりーむパン』の誕生に秘められたストーリーや挑戦を続ける姿勢は、私の行動原理に直結しています。工場建設やカフェ、保育園の立ち上げ、6次化支援商品の開発などに携わる中で、「まずやってみる」という姿勢は、森光の背中から学んだもの。経験や自信の有無、損得で判断せず、挑戦を重ねてきました。

2020年 39歳

「農福連携」の事業化を目指し、県立広島大学大学院 経営管理研究科(HBMS)へ入学

八天堂での事業を進める中で、人手不足の農業者と就労先を探す福祉事業所をつなぐ「農福連携」という活動に出合いました。事業化のヒントを得るため、県立広島大学大学院 経営管理研究科(HBMS)へ入学。地域資源やヘルスケア、コモンズといったカリキュラムは農福連携と親和性が高く、同期には医師や看護師、社会福祉法人の方もおり、実践につながる学びの多い環境でした。

在学1年目の2021年1月には後継者不在の農地(現・八天堂ぶどう園)を同期と継承し、座学と実証を重ねる中で、農福連携に2次産業(工)・3次産業(商)を組み合わせた『商工農福連携(ノウフクマーケティング)』を見出しました。

ぶどう園

現在の八天堂ぶどう園

2022年 41歳

社内ベンチャーとして株式会社八天堂ファームを設立

大学院修了後、社内の事業部ではなくベンチャーとして「八天堂ファーム」を立ち上げました。これはグループとして本気で取り組む意思表示であり、同時に自分自身に甘えが出ないようにするためです。農福連携の事業化は容易ではないと考え、八天堂への影響が出ないよう独立採算でいこうと考えました。創業当初はほぼ一人でのスタート。ここでも営業や商品企画、ビジネスモデル開発など、未経験分野に挑戦してきました。

現在

Vision Map

林義之さんの未来地図

01

現在の活動内容は?

広島県を中心に、「農福連携」を持続可能なビジネスとして成立させる取り組みを進めています。広島県竹原市の「八天堂ぶどう園」を自社で運営し、社会福祉法人と連携する形で農福連携の実践、実証を重ねています。

農福連携は、社会的意義が高い一方でビジネスとしては厳しい面があります。農業は天候・獣害・病害などのリスクを抱えており、当社のぶどう園でも初年度に9,000房のうち5,000房をイノシシに食べられる被害がありました。こうした難しい農業に障がいのある方が関わるため、習熟や定着に時間がかかり、コストも高くなりやすいのです。

そこで当社では収益性を高めるべく、収穫したぶどうを高値で販売できるよう販路を工夫し、規格外品は業務用ジャムに加工しています。そのジャムは機内食にも採用されているほか、原料として『くりーむパン』などの加工品にも展開しています。

DSC09058

八天堂ぶどう園でのぶどう栽培の様子

02

活動の原動力は?

八天堂に転職してまもなく新工場建設プロジェクトに携わり、未経験の取り組みながらも社内外の多くの方に支えられながら竣工できたことが、すべての起点となっています。その後、千葉県で社会福祉法人との共創による障がい者の就労支援を目的とした「八天堂第2工場」の立ち上げや、規格外のフルーツを活用した6次化支援商品『スイーツバーガー』の事業開発などに携わる中で、農業と福祉の課題に直面しました。

農業はリスクの多くを農家が負う構造があり、担い手不足によって荒廃農地も増え続けています。福祉の分野では、就労継続支援B型(障がいのある方の就労支援サービス)の工賃が、2017年当時の全国平均で月1万5,000円程度と低い水準にありました。

こうした経験から「何とかしなければならない」との思いが強まり、現在の原動力となっています。また人との出会いや、協力によって物事が形になる瞬間にもおもしろさを感じています。

プレスリリース用

2024年、クラフトスイーツブランド「Butters(バターズ)」とコラボした6次化支援商品『バターサンドウィッチ 赤ぶどう』

03

描いている未来は?

農福連携を持続可能なビジネスとして成立させるために、2024年に立ち上げた「農福コンソーシアムひろしま」の加盟事業者様と連携しながら、「農業版SPA(Speciality store retailer of Private label Agriculture)モデル」の実現を目指しています。

後継者未定の農地と事業者のマッチングは進む一方で、課題はその先の「販売」にあります。八天堂グループの強みは、業態転換の中で培った加工技術や販路にあるため、農業そのものを広げるのではなく、商社的な役割を担うことが当社らしい在り方だと考えました。コンソーシアム内に販路の確保や規格外品の収益化を支援する機能を組み込み、「八天堂ファーム」がその中核を担います。

今後は加盟事業者様と連携し、市場ニーズに合った商品開発を起点に、農作物の生産設計をし、サプライチェーン全体で付加価値を高めながらお客様に届けていきます。そしてこの取り組みを「広島モデル」として全国、さらには世界へと広げます。一人でも多くの障がいのある方が自立し、消費活動に参加できるようになることで、新たなマーケットが生まれ、日本の経済成長にも寄与できると考えています。

Essence

林義之さんに10のQuestions!

Q1

活動しているなかで、心に残っている言葉や出来事は?

八天堂第2工場の立ち上げ時に、社会福祉法人かずさ萬燈会理事長がおっしゃった「就労継続支援B型の月間工賃を月1万2,000円から10万円に引き上げたい」という言葉です。これが実現すれば、障がいのある方の自立が促され、納税義務が生まれることで「支えられる側」から「支える側」に変わる。それが自信や生きる糧になるという話に、感動しました。

Q2

今注目しているコトやモノ、場所は?

生まれ故郷である福岡県田川市です。母方の実家もあり、小学校までは毎年帰省していたため、第二のふるさとのような存在です。炭鉱の町らしい、少し荒っぽい雰囲気が印象に残っています。

Q3

ご自身はどんな人?

人と同じことにとらわれず、異なる選択をする傾向があります。皆が「左」と答えれば、本心は別として「右」と答えたくなるタイプです。それが良い結果につながることもあれば、そうでないこともありますが、心の赴くままに動けば後悔はないと思っています。

Q4

最近、感銘を受けたこと、感動したことは?

日本経営の創業者が逝去され、「偲ぶ会」に参列した際、自身の成果よりも仲間や部下への感謝を語られていたことが印象的でした。創業以来、多くの困難を経験されながらも、当時の社員が一丸となって乗り越え、成長のエンジンとしてきた軌跡に感銘を受けました。

Q5

座右の銘を教えてください。

「人間万事塞翁が馬」。子どもの頃、父方の祖父から贈られた自筆の色紙に書かれていた言葉です。社会に出て経験を重ねる中で、この言葉が骨身に染みるようになりました。困難に直面したときには、この言葉を思い出し、自身を励ましています。

Q6

あなたにとって「挑戦」とは?

恩返しです。これまで多くの方々に迷惑をかけ、助けていただいてきました。直接お礼やお返しをすることは叶わなくても、私が挑戦し、少しでも社会の役に立つことで、間接的に恩返しにつながると信じています。

Q7

挫折しそうになったことはありますか? そのとき、どう乗り越えましたか?

前職時代にクレームが続いたときです。自分を奮い立たせても状況はさらに悪化し、逃げ出した方が楽だと感じるようになりました。しかし、父が突き放してくれたことで逃げ場がなくなり、当時の上司や同期、彼女(現在の妻)が支えてくれました。「三歩進んで二歩下がる」状況に耐えられたのは、周囲の方々への感謝と、恩返ししたいという思いがあったからです。

Q8

死ぬまでに一度はやっておきたいことは?

南米ペルーの遺跡「マチュピチュ」への訪問です。新婚旅行で行きたかった場所ですが、日程の都合で断念したので、妻と必ず行こうと約束しています。

Q9

あなたにとって「夢」とは?

自身の可能性を引き出してくれるもの。夢を持つことは簡単ですが、口にした瞬間に辛くなります。それは、その夢を達成する上でのハードルや言い訳がたくさん思い浮かぶから。それでも勇気を持って夢を語り、仲間を集め、実現の可能性が1%ずつでも高まっていけば、いつしか夢は「志」に昇華すると信じています。

Q10

この世に生まれた目的、使命はなんだと思いますか?

「いただいた命と機会への恩返しとして、社会に貢献すること」です。今生きていること、仕事ができていること自体が奇跡だと感じています。私が生まれた日は台風が上陸し、病院に行くのが困難な中で、へその緒が首に巻きついた状態での出産でした。その後も病気や事故を経験し、一歩間違えれば今ここにいなかったかもしれません。また前職でも解雇されていたかもしれない私が、今チャレンジできる仕事に出会えています。だからこそ、八天堂ファームにしかできない形で社会に貢献し、次世代へつなげていきたいと考えています。

※本記事の情報は、掲載日もしくは更新日時点のものです。(更新日: 2026年05月25日)

Profile

プロフィール

pin_fill_rounded_circle [#ffffff] Created with Sketch. 三原市

林義之さん/YoshiyukiHayashi

株式会社八天堂ファーム 代表取締役

1980年生まれ、広島県出身。大学卒業後コンサルティング会社を経て、2011年に株式会社八天堂へ入社。新工場や体験型カフェ事業の立ち上げに携わる。2020年には県立広島大学大学院(HBMS)でMBAを取得し、そこで提唱した「商工農福連携」を実践するため、2022年に株式会社八天堂ファームを設立。農業と福祉に商業を掛け合わせた持続可能なビジネスモデルの構築に取り組んでいる。2023年には『ノウフク・アワード2022』チャレンジ賞を受賞し、第10回『ディスカバー農山漁村(むら)の宝』に選定される。2025年には『ノウフク・アワード2024』準グランプリを受賞。