地域のミューズを発掘するメディア
これまでの歩み
今の時代だったらあり得ないようなブラック……いや、その域を超えたやばい会社に入ってしまいまして。マフィアのような上司や街の名物おじさんのような先輩のもと、地獄でありコミカルなサラリーマン生活を14年間過ごしました。「今があるのはその時のおかげ」と言われることが多いのですが、それも事実ではあるものの、失ったものの方が何倍も多い黒歴史の時代です(笑)。
8時30分に出社し、深夜2時に帰宅するような(徹夜もちょくちょく)毎日で、上司には理不尽に説教を受け、何度もしばかれていました。「辞める」なんてことを言うのは怖かったのでとにかく頑張りました。28歳で営業課長になりましたが、仕事が楽になることなんてことはなく、成長はさせてもらいましたが忍耐の日々でした。
勤めていた印刷会社は2000年に廃業となり、他の会社と合併などを経て3年ほど経ったころ、資金繰りが悪化し、5か月分も給料の未払いが発生しはじめました。さすがに給料が払われていないわけですから、辞めると言っても止めることはできないはずなので、「今しかない」という感じで退職しました。
2000年に結婚して子どももいたので、家族のためにも辞めたところはありますね。
退職後は、広告企画制作会社「リディアミックス有限会社」を設立。ただ、いわゆる“起業”というよりは、フリーランスとして独立した感じです。自宅マンションの一室で、妻と二人で仕事を始めました。
業務としては、クライアントからパンフレットやチラシなどの案件を受け、それをデザイナーや印刷会社に外注し、自分は全体のプロデュースを担う。そんなスタイルで仕事をしていました。
デザイナーを雇うことにしたのは、デザインを外注していると、仕事を取ってきてもどうしても利益率が上がりにくかったんですよね。家族もいましたし、「このままの働き方でいいのか」という不安はずっとありました。
デザイナーを雇うことで社内利益が上がると同時に、付加価値があって会社としてもいいんじゃないかと思って、専門学校に掛け合って新卒を1人採用しました。たまたまその子がすごくデザインが上手で、仕事もスムーズに回るようになりましたし、今のデザイン事務所に転換するきっかけにもなったと思います。
デザイナーはまだ1〜3年目のチームだったんですけど、「デザイン上手ですよね」と言ってもらえることが多くて。うちは打ち合わせは全部僕がディレクターとして入っていたのも、大きかったと思います。フリーランスのデザイナーさんって、よく「連携を取りたいときに取れない」とか、「連絡がつかない」みたいなことがあるんですよね。でも僕はフットワーク軽く動けていたので、そのあたりのストレスがクライアントさんになかった。それがすごく良かったんですよね。しかも、ちゃんと“つくる力”もある。
外注していた頃に自分が感じていた「ちょっと使いづらいな」という部分を、うまく解消できた感覚がありました。
そんな中で、これから起業される通販会社のデザインを任され、そこで初めてLPを制作しました。その会社がどんどん業績を伸ばしていくと、うちの会社のデザインを見た他の通販会社さんからも声がかかるようになって、東京や関西の仕事もどんどん増えていきました。その会社の社長さんには感謝しかないですね。
仕事が増えたことで社員も増え、業務過多対策で東京にデザインルームを開設。マックスの時は40名弱になりました。ただ、その後に人材崩壊のような時期が会社で起きてしまって。東京拠点は1年で撤退、この年から4年ほどの間に約20名のスタッフが退職しました。
背景には、新人教育を任せた先輩側の負荷が大きくなり、精神的に崩れてしまったことがありました。そうすると、その新人も辞めてしまう。そうした連鎖や業務過多による残業の問題などで、最終的には17名いたデザイナーが5名まで減るところまで縮小しました。
そこから、フレックスにしたり、ルールを減らしたり、働き方やマネジメントの考え方を見直して、中途採用も入れながら、なんとかしのいでいきました。特に、明るいスタッフが入ってくれたことの貢献は大きくて、社内の空気が大きく変わったんです。それとともに、業績も回復していきました。
僕自身も、細かいことを気にしたり、強く指導することをやめました。今の時代に合った経営や人の育て方、指導の仕方を学んだ時期でもありましたね。
一緒に頑張ってきた妻が他界。このことで、働き方に対する考え方が大きく変わるきっかけにもなりました。何のために働くのか、会社は誰のためにあるのかを、改めて考えるようになったんです。
今は、スタッフのメンタルや健康管理を軸に、働き方そのものを考えるようにしています。また、効率よく売上を伸ばして利益を出すために、優良クライアントや案件を絞り込むことも実践しています。
スタッフのスキルアップも年々実感していますし、20代女性が中心の組織だからこそ、その先の30代以降も見据えた、社内での働き方のプランも検討しています。長く楽しく働きながら成長して、年齢に応じた報酬も得られる。そんなビジネスライフプランを構築していきたいと思っています。
具体的な変化でいうと、自分自身が実務から完全に離れて、案件担当ではなく組織を見る側に回ったこと。組織づくりを“管理”しすぎないこと。指導するというより、語り合うこと。規定時間を超える残業はさせないこと。服装や髪型はある程度自由にすること。会社管理型を自己管理型へ変化させようとしていること。そういう積み重ねで、働くことを「我慢するもの」ではなく、「続けられるもの」に変えていこうとしているところです。
プライベートの方も、まったくしてこなかった家事を自分でやるようになったのは大きな変化です。2人いる子どももまだ実家にいるので、家族の食事も作ったり、一緒にキャンプに行ったりもしています。それまでは仕事しかしてこなかったですから。でも、今が一番自分らしいかもしれないですね。昔はストイックに仕事をして、上にたつならばちゃんと怒らないといけない、と思い込んでいたので。無理せず、素に近い自分で働くことができているので、ストレスもあまりなく仕事ができています。
松下 剛さんの未来地図
01
福岡市で広告デザインの会社を経営しています。印刷会社で経験を積んだあと独立。今は、福岡や九州近郊のデザイン好きなメンバーと一緒に、デザイン制作や撮影、編集などを行っています。以前は紙中心のデザインでしたが、現在はオンライン通販業界のWEB広告デザインの仕事が中心で、クライアントは福岡だけでなく関西や関東まで幅広くお付き合いがあります。「やりたいことを、ちゃんと形にする」をテーマに、デザインを通してお客様のチャレンジをサポートする仕事に日々取り組んでいます。
WEBデザインを中心としたデザイン制作会社
02
お客様にデザインやうちのスタッフを褒めてもらえることが、一番の原動力ですね。やっぱり人の役に立てる仕事でありたいと思っています。
昔からそう思っていたわけではない気がするのですが、自然とそうなっていった感じでしょうか。今までやってきたことをあらためて言語化すると、それを軸にずっとやってきたんだなと思います。
最初は「怒られたくない」というところから始まっているんですよね。どうしたら怒られずに、気持ちよく仕事ができるかをすごく考えていました。新卒で入社した会社にいた頃は大変でしたし、相手のツボというか、何をすると喜んでもらえるかを探っていた感じです。でも、だんだん「ここまでできたらこの人はうれしいだろうな」とか、相手が求めていることに気づけるようになって、それはクライアントさんやユーザーに対してもそういうことをずっとやってきた感覚があります。
この想いが、働きやすさやスタッフが気持ちよく働ける環境づくりにもつながっていると思います。「怒られないため」に始まったものが、いつの間にか「人に喜んでもらいたい」に変わっていったのかもしれないですね。
デザイン力の向上はもちろんのこと、一人ひとりに寄り添った働き方、環境づくりを心がけている
03
まだ会社として、未来の安定が見えている段階ではないので、まずはしっかり利益を出せる仕組みを試行錯誤しているところです。
一方で、会社が完全に軌道に乗って財力がついたら、地域の生産者の方の商品ブランディングにも関わっていきたいですね。デザインで地域に貢献できることは、まだまだあると思っています。
それと同時に、自分たちが最もできることは、デザイナーの育成だとも考えています。クリエイティビティはもちろんなのですが、ディレクターとしての育成も大切だと思っています。今、デザイン業界は、スキル低下や経営不振、フリーランスの増加による仕事ルールの変化、お客様側のインハウス化やAI活用など、大きな転換期のような気もしていますね。
だからこそ、そんな時代でも長く活躍できて、生涯デザインの仕事で安定して暮らしていけるための“思考の土台”を伝えていきたい。社内外を問わず、デザイナーの育成に関わっていきたいと思っています。これからデザイナーを目指す学生さんにも、簡単にうまくいく世界ではないことは伝えたい。厳しさも含めて、それでも本気でデザインが好きな人が目指せる世界であってほしい。
学校ではなかなか教えてくれない現場のリアルや、生き残るための考え方を伝えながら、デザイナーがきちんと報酬を受けて輝ける世界をつくる。そのための一役を、残りの時間で少しでも担えたらと思っています。
スタッフのみんなと
松下 剛さんに10のQuestions!
Q1
最近意識している言葉がいくつかあります。
「得意を見つけ、得意を伸ばす」
「評価は自分ではなく相手がするもの」
「ちゃんと考える前に、ちゃんと聞く」
「本当の愛とは相手の嫌がることをしないこと」
「継続は力なり」
など。
今になって反省して改善しないといけないと思うことばかりです。長く続けることの尊さを自分は感じています。デザイン会社に変換して16年のキャリアの中で「誤った指導法」「誤った考え方」などに気付きようやくスタッフとの向き合い方が分かってきました。
上手くいかないと方法をすぐ変えたり、事業自体を変えたりと考えたことが多々あったのですが、まわりのアドバイスもありデザインという仕事を深掘りしてきたおかげで16年経って気づいたことが多々あり、今に至っています。
自分との約束はほとんど長続きしないですが、事業として続けてきた今、継続してこそ成長が続くことを実感でき、課題改善の手段や派生事業は変えたとしても「根本事業(自分の場合はデザイナー育成とデザイン根本での得意先貢献)の継続は力なり」は自分の価値観としてはとても強く心に刻みついてます。
Q2
短所:
基本的には気が短い。
細かな作業が苦手ですぐイライラする。
周りの評価を気にしすぎる。
面倒くさがり。
かなりびびりである。
人と深い関係を作ることが不得意。
長所:
見た目で得をしている。(びびりなのに強そうに見える点)
相手が嫌がることをしないつもり。
楽しいことが好き。
短所を補うように日々努力している自分。
運動神経が良い(アスリート体型らしい)。
クリエイティブな感性感覚が良いつもり。
Q3
お世話になった人たちからたくさんの縁をいただいている実感をしたこと。
妻の通夜に500人を超える人が来てくれたこと。
Q4
100点満点での50点。
これまでの積んできた経験だけの点数30点(なんとなく)。
多くのスタッフが離職した結果、改善できてきたので経営者評価は低い。
家族に対しては10点。
妻を困らせたし、亡くしてしまったので子どもにしっかり返すことで加点目指したい。
Q5
まず相手が嫌がることはしない、ということですね。これはお客様に対しても、スタッフに対しても同じです。
特にスタッフに関しては、誰にでも得意不得意があるので、苦手を無理に矯正するより、得意なところを伸ばしてあげたいと思っています。極論、悪いところにはある程度目をつむってもいい。そこって、なかなか簡単には直らないので。
少し前までは、できない部分を何とか直そうとしていた時期もありました。でも今は、それより強みを活かしたほうが、本人にとっても組織にとってもいいと感じています。
Q6
子どもが幸せな人生を送ること。
スタッフが幸せな人生を送ること。
Q7
デザイン以外の仕事で起業したい。他の仕事を経験してみたいですね。デザインは大変ですから……。でも、起業はまたしてみたいです。
あとはラグビーやサッカーや野球をしたい! チームスポーツがしたかった。そしてモテたかった(笑)。
Q8
「頭のいい人が話す前に考えていること」(安達裕哉著)。
たとえば印象に残っているのは、感情的になると判断力が落ちる、いわば「感情的になるとバカになる」という話です。カッとなったときは6秒我慢すると落ち着く、という考え方も紹介されていて、すごく実践的だなと思いました……浅い(笑)。
Q9
勇気を持って人に相談すること(だいたいそこから出発)。
逃げ場を作った上で新しいことを行うこと(逃げ場=取り返しがつく状態)。
Q10
人から裏切られても「人を裏切らない」。
※本記事の情報は、掲載日もしくは更新日時点のものです。(更新日: 2026年04月28日)
Profile
プロフィール
松下 剛/Tsuyoshi Matsushita
リディアミックス株式会社代表取締役
1970年生まれ。福岡県福岡市出身。リディアミックス株式会社代表取締役。東福岡高校卒業後、印刷会社に就職。14年の激務を経て2003年に起業。会社設立10年後に印刷企画制作会社からデザイン会社に業態転換。現在ではWEB広告を中心にデザイン制作を行う会社へ成長。営業ディレクター出身ならではの視点でクライアントから信頼されるデザイナーやディレクター育成を目指し、デザイナーやディレクターが成長するプロセス設計と豊かになる未来を考えている。
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