地域のミューズを発掘するメディア
これまでの歩み
通信システム事業部のデザインチームに所属し、携帯電話の外観デザインや設計を担当しました。デザイン的には「もう少し丸みを持たせたい」と思っても、「薄さを重視したい」といった会社の方針や、エンジニアからも「構造上難しい」といった制約が出ることも多く、それぞれの立場の意見を調整しながら、実現できる形を探していく日々でした。
現在の仕事でも「こうしたい」という理想がある一方で、「それだと開発に時間がかかる」など、さまざまな立場から意見が出ます。そうした声を整理しながら形にしていくところは、当時から変わらないなと感じています。
ちょうど「iPhone」が登場し、端末はシンプルに、アプリのアイコンは豊かに表現されるようになり、グラフィックの分野に挑戦したいと思うようになりました。また広島や大阪で働いたことで、地元・福岡の暮らしや街の魅力を改めて実感し、福岡へ戻ることを決めました。
BUZZHOOKでは、地域Webメディアのデザインや取材、ライティングのほか、行政や広告代理店と連携してパンフレット制作などを担当。現場はとても忙しい環境でしたが、その中でスピードと一定のクオリティを両立させる力が身につきました。
結婚を機に宮崎県へ移住し、一度は専業主婦として生活してみたものの、やはり「何かをつくる仕事がしたい」という思いが強くなり、職業訓練校に通い始めました。ちょうどその頃、のちに株式会社ライトライト代表となる齋藤隆太氏が、地域特化型クラウドファンディング「FAAVO」の宮崎拠点立ち上げに伴う採用イベントを開催しており、「宮崎のことをもっと知れるかもしれない」という軽い気持ちでアルバイトとして参加。クラウドファンディングをしたい方々のサポートをしました。
FAAVOの事業譲渡に伴い、国内最大のクラウドファンディングプラットフォームを運営するCAMPFIREへ移籍。プロダクト開発チームにてサービス開発や改善に携わり、デザインチームのサブマネージャーも務めました。
サーチフィールド、CAMPFIRE時代を共にした齋藤氏が設立した、株式会社ライトライトに入社。オープンネーム事業承継「relay(リレイ)」のデザイナー兼プロダクトマネージャーを務め、2025年7月から執行役員CDO(チーフデザインオフィサー)に就任しました。
株式会社ライトライトの皆さん
塩月慶子さんの未来地図
01
現在、オープンネーム事業承継「relay(リレイ)」で、地方の事業承継を推進する仕事をしています。relayは、後継者不在で廃業の危機にある地域の小規模事業者と、事業を引き継ぎたい人をつなぐサービスです。本社は宮崎県にあり、福岡に暮らしながら宮崎と行き来して事業に取り組んでいます。
その中で私はCDOとして、譲り手の事業者をどう集めるか、継ぎ手が自分に合う案件と出会えるかを考え、Webサイトの導線設計やフォーム改善、広告施策などプロダクトづくりを進めています。またAIを活用した開発体制の構築や、特許戦略の検討、AI利用ガイドラインやセキュリティ方針の整備など、組織全体を強くする基盤づくりにも関わっています。
日本のデザイナーの約8割は都心部にいると言われますが、社会課題の多くは地方にあります。地方にいながら課題解決に深く関われることにおもしろさを感じています。
02
キャリアの軸が定まったのは現代表がrelayの前に立ち上げた、地域特化型クラウドファンディング「FAAVO」に関わっていた時です。2017年、宮崎県の女子大生がコーヒーイベントの資金調達に挑戦し、目標123%・支援者約100人を達成しました。当日は多くの人が集まり、一人の思いが街を動かす瞬間を目の当たりにしました。地方は人口規模が小さい分、応援しようという温かさも生まれやすく、声が届きやすい。一人の行動が大きな波紋を生みやすいことにおもしろさを感じました。
また「仕組み」をつくることに価値があることにも気づきました。一般的にデザイナーが地域に関わるとなると、地域事業者のWebサイト運営支援やイベント企画など、直接的な課題解決が中心です。それも価値のあることですが、誰でも使えるプラットフォームをデザインすることで、何百、何千という人の挑戦を後押しできる。だからこそ私は、地域というフィールドで仕組みづくりに取り組んでいます。
現在の仕事でうれしいと感じるのは、ユーザーの顔を直接見られた時です。relayで宮崎の老舗パン店「ミカエル堂」の事業承継が実現した際には、セレモニーに地元の方々が行列をつくるほど集まりました。その景色を見た時は、「必要とされている」ことが実感できて、とてもうれしかったですね。普段は裏側で仕組みをつくる立場だからこそ、お客様に会う時間を大切にしています。
ミカエル堂のマッチングセレモニーにて。譲り手・継ぎ手の方々とrelayメンバー
03
後継者不在の事業者と向き合う中で感じたのは、「後継者がいない」という以前に、「自分の事業には価値がない」「誰も継ぎたがらないだろう」と思い込み、声を上げること自体に抵抗を感じている方がとても多いということでした。だからこそ、第三者への事業承継は怖いことではなく、新しい挑戦の形だという認識を広げていくことを大切にしています。自治体や商工会、金融機関と連携し、事業者さんへの声かけや相談時の同席、事業承継セミナーなどを通じて、少しずつ声を上げやすい環境を整えているところです。
またrelayでは、地域の小規模事業者の事業承継を「事業のリノベーション」の機会と捉えています。事業承継は、今はまだポジティブなイメージではないかもしれません。しかし実は、地域に愛されてきたブランドや常連のお客様、設備などの既存の経営資源を活かしながら新しい挑戦を始められる、とても合理的で可能性のある選択肢なんです。実際にrelayを通じて事業を継いだ方も、昔ながらのロゴを現代的におしゃれにアレンジするなど、価値を受け継ぎながら自分らしくアップデートしています。
不用品をフリマアプリで売ることが当たり前になったように、「relayで事業を継ぐ」ことが、自然な選択肢になる世界をつくりたい。そのためにもAIを活用してプロダクト開発を効率化し、より多くの時間をお客様と向き合うことに使っていきたいと考えています。
塩月慶子さんに10のQuestions!
Q1
社会課題の解決と事業成長の両立を目指す、「インパクトスタートアップ」に注目しています。資本主義の限界やポスト資本主義という言葉をよく聞くようになりましたが、社会的に良いことをしながら利益も生み出す会社や動きに惹かれており、そうしたモデルが増えていくことに関心があります。
Q2
長所は、あまり人にいら立たないこと。身近に障害のある家族がいたこともあり、人にはそれぞれ特性や揺らぎがあるものだと、おおらかに受け止める感覚が身についた気がします。
短所は、「今ここ」にいられないこと。目の前の会話や作業に集中しているつもりでも、どこかで別のことを処理している感覚があり、よく「話聞いてる?」と言われます。意識的に戻すようにしていますが、まだまだ修行中です(笑)。
Q3
「これがルールだから」と思考を止めてしまうことが許せないかもしれません。ルールや仕組みには必ず存在する理由があるはずです。それを考えずに従うだけでは、変化や改善を推し進めようとする動きに、無自覚に抵抗する存在になってしまう。ルールに出会ったらまず「なぜ?」と考えるようにしています。
Q4
50点。50点は100点の中で上にも下にも開かれた数字で、努力すれば伸びしろがあり、油断すればすぐ下がる。その緊張感が自分を前に進ませてくれている気がしています。常に伸びしろのある50点でいることが、今は一番しっくりきています。
Q5
「多少不安でも、打席に立つ」。もともと不安を感じやすく、新しいことや未知の状況に対して慎重になりすぎるところがあります。けれども、いざ打席に立ってしまえばどうすればうまくいくか頭をひねり続けるので、怖いのは「立つ前」だけ。とにかく打席に立つことを意識しています。
Q6
自信を失い、デザイナーを辞めた時期があります。別の仕事を経験する中で、当時は「かっこいいものをつくりたい」という自分のエゴでデザインしていたことに気づきました。そこからもう一度デザインに向き合おうと思えたんです。その経験があったからこそ、今の自分がいると思えています。挫折って、してみるもんです。
Q7
「社会構造の日陰に、クリエイティブな光をあてる」こと。地方に生きるだけで情報や機会の格差が生まれたり、女性であるだけでキャリアの選択肢が狭まったり、「構造的な日陰」はもっとたくさん、静かに存在しています。まるで課題がないかのように透明で気づかれない。けれど当事者はずっと抱えている。そうした日陰を、表現や発想の力で照らしていきたいです。
Q8
10代の頃は部活にもっと打ち込んでおけばよかったと思うことがあります。当時はチームで何かをすることにピンときていませんでしたが、現在の仕事でチームのおもしろさを知りました。みんなで悩み、みんなで喜ぶ感覚がこんなにも人を動かすものだとは思っていませんでした。ただ当時の斜に構えた視点が、今の「少し違う角度から物事を見る力」につながっているとも感じています。
Q9
最近はAIにハマっています。誰でもいろんなものがつくれるようになったので、遊びながら触っています。それがきっかけで、これまで避けてきたエンジニアリングの勉強も始めました。「AIがあればエンジニアリングは不要」と言われるほど、逆に気になってしまうんです(笑)。
Q10
『私とは何か――「個人」から「分人」へ』(平野啓一郎著)はバイブルです。「本当の自分」なんて存在しない。あるのは人と対峙したとき、それぞれに立ち現れる分人だけだ。という主張が好きです。日本人は「内弁慶」「八方美人」「人見知り」と、人によって自分が変わることをネガティブに捉えがちです。そんな息苦しさを楽にしてくれる一冊です。
※本記事の情報は、掲載日もしくは更新日時点のものです。(更新日: 2026年06月10日)
Profile
プロフィール
塩月慶子/KeikoShiotsuki
株式会社ライトライト 執行役員CDO
1984年生まれ、福岡県出身。シャープ株式会社にて携帯電話のインダストリアルデザインに従事。その後、FAAVO、CAMPFIREなどのクラウドファンディングプラットフォームでプロダクト開発に携わる。2023年、株式会社ライトライトへ参画し、オープンネーム事業承継「relay(リレイ)」のデザイナー兼プロダクトマネージャーとして、プロダクト開発からブランディングまで事業全体のデザインを統括。2025年7月、執行役員CDOに就任。
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