地域のミューズを発掘するメディア
これまでの歩み
この年に、父が事故で亡くなりました。この経験が、私を「不条理を嫌う人間」にしました。この時の「なぜ自分だけが」と感じた違和感は、その後、社会を見る際の基準になっています。
たとえば、生まれた場所がそのまま人生の条件を決めてしまう。バングラデシュに生まれれば、ほとんどの人が貧困から抜け出せない。ほかにもいじめや差別など、本人には選択の余地がなく、抗えない構造も同じです。私はこれらをすべて「不条理」と呼んでいます。
そうした構造を目にしたとき、放置できない感覚が湧いてきます。原体験に根ざした「なんとかしたい」という衝動です。
現在、地域活性化を軸に事業を展開しています。「よくそんなことを続けられるね」と言われることもありますが、私にとっては人生をかけて向き合うべき課題です。祭りがなくなり、景色が失われ、地域が維持できなくなっていく。この状況は、利益が出るかどうかの問題ではありません。そこに強い気持ちを持ち続けられるかどうかが重要です。
私の原点には、幼少期に体験した「不条理への反発」があります。それが原動力になっているところはありますね。
私にとって2つ目の転機は、「労働力もまたシェアできる資源だ」と確信した瞬間でした。
2018年3月に起業する直前、国の就業規則が改定され、いわゆる「副業解禁」の動きが本格化しました。さらにその時期、シェアリングエコノミーの主要プレイヤーや自治体が集まる国内最大級のイベント「SHARE SUMMIT」に参加したことが、決定的なきっかけとなりました。
当時、多くの人にとってシェアリングエコノミーは「モノや場所を共有する」イメージが強かったと思います。ところがサミットで議論や事例に触れたとき、「宿や車だけでなく、“労働力そのもの”こそ、これからの社会で最も価値を持つシェア対象になる」と直感しました。
これは、地方で経営に携わっていた経験があったからこそですね。優秀な人材はどこを拠点にしていても求められるものということを、身をもって体感していたので。
そして、2018年3月に起業。
現在、私が手がけている、首都圏のハイスキル人材を地方に再配置する仕組み、子育てや介護でフルタイム勤務が難しい人々にリモートワークの場を提供する仕組みなどは、その時に芽生えた発想から始まっています。
田中祐樹さんの未来地図
01
会社名である「トレジャーフット」は、「地域の宝物は足元にある」という意味。これは、経営理念というよりは、ビリーフ(信じるもの)として表現しています。これをさらに言語化すると、経済と地場産業の発展に貢献し、経済と文化が巡る社会の実現に向けて共走(共に走る)し続けるということ。共に作り上げる前のところから一緒にやりましょうというスタンスです。売り上げの柱としては、民間企業向け事業と地方自治体向けの事業がありますが、主な事業内容は3つあります。
1つ目は、今はあまり稼働していない以前の主軸となりますが、外部人材の活用ビジネス(事業共走部)。これは、プロ人材を集めて企業の経営課題を解決する事業です。この事業は円滑にうまくいっていたのですが、僕は最終的に「日本を元気にしたい」=「地方を元気にする」というところがゴールなのですが、プロ人材は東京に多いんですよね。そうなると、このモデルは地方からお金を搾取しているようなシステムになってしまうので、今ではあまりやっていません。
そこで、今8期目なのですが、3〜4期目に始めたのが地域の人材育成事業(地域共走る部)。これが2つ目の事業です。「スキルの地産地消」という言い方をしているのですが、地域の人材が地域企業で活躍することで経済循環を生んでいくもの。この育成事業は、国や地方自治体の予算を活用した人材育成・起業家育成プログラムです。以前は個人向け(To C)で直接提供していましたが、現在は企業を通じた福利厚生プログラム(BtoBtoC)としても提供しています。地方自治体の起業家育成や女性企業家育成など、さまざまなプログラムに対応しており、入札を通じて予算を取得し、私たちのカリキュラムで地方人材を全国で育成しています。
3つ目にコミュニティ事業。既存の企業で繋がった人材や関係者をコミュニティ化して、人との繋がりを資産化し、国の予算がなくなっても活動が継続できることを目的としています。例えば福島県の関係人口創出とか、香川県高松市の移住コミュニティなどを運営しています。
これらの事業があり、最終的には僕らでファンドを作ったりいろんな資金調達の支援をしていきたいです。 いわゆるローカルファイナンスですね。
また、どの事業も特定のエリアで重点的に実装することを重視しています。それくらいしないと地方は元気にならないと思っています。特定のエリアでは支店を出して、それぞれで活動しているような形です。
02
ベタかもしれませんが、社員やお客さんなど、関わる人たちの笑顔や喜んでいる声を聞くと、やる気になりますね。原点がお金儲けというところではないので、純粋に「ありがとう」と言われることとか、人と人との繋がりというところは大きいです。
03
僕らが提唱している「T理論」というものがあって、これは「地域活性化」「地方創生」のために自社で設計した理論・仕組みです。地域活性や地方創生といっても、「何をやっているのか」ということが可視化されていないため、うまくいかないことも多いのだと考えています。そのため、「何を」「どう実行するか」を言語化した設計図を作りました。
このT理論を、日本全国に広めていきたいと考えています。T理論が誰でも理解し行動に移していけるようなロジックモデルも作成しています。本来であれば、地元のことは地元の人が担ったほうがよいので、私たちはノウハウを提供し、現地で運営できるパートナー企業とアライアンスを組む形で展開したいと考えてきました。
実際に、アライアンスによる展開も試みていますが、過去に長野や名古屋での取り組みでは思うような成果を出なかったんです。そのため、現在は直営での運営に切り替え、自分たちでしっかりと取り組む形を進めています。まずは直営施設の出店を増やしていくことが第一の課題です。
さらに、T理論を広げる際には、都道府県単位では規模が大きすぎると考えています。基礎自治体レベル、つまり市町村単位での展開が適しており、一市二町程度の規模で実施していく必要があると考えています。最終的には、全国にある約1,800の自治体に向けて、この取り組みを広げていければと考えています。
田中祐樹さんに10のQuestions!
Q1
仕事で積雪の多い地域に行った時に、片道20分くらいのコンビニへ歩いて向かったんですが、雪が深すぎて、本当に大変でした。道は過疎で、空き家ばかりで、人もいない。その時、「自分は本当に、日本の過疎を元気にできるのか」と思いました。
この経験以降、過疎を“自分の力でなくす”という考えは持たなくなりました。そもそも、できないことがあって当たり前なんですよね。できないと思わされる場面があっても、今日の仕事を全力でやる。それだけです。途方もないほど大きな目的を持って社会起業をしているからこそ、目の前の一歩を積み重ねていく。その先にしか、変化はありません。
Q2
直島のような地域活性化の成功事例を、新しい場所でつくってみたいと思っています。あらためて現代の解釈に置き換えるとどうなるのか、という視点で取り組みたいですね。
あとは、自分の子どもの成長です。
Q3
長所はリーダーシップかなと思っています。学生時代も部活も遊びも、なんだかんだでいつもリーダーをやっていましたし、長男ということもあって自然とそういう立ち位置になっていました。「経営やっていてすごいね」と言われることもありますが、正直、経営しかできないんです。
短所は、細かいことが苦手なところです。
Q4
息子が小学校2年生で、僕はバスケットボールのコーチをやってるんですけど、この前、練習試合で負けちゃったんですよ。相手は2学年くらい上だから、負けるのは当たり前なんですけど、悔しそうにしてるチームの子どもたちを見たら、もう胸が熱くなっちゃって。なんだか泣きそうになりました。
Q5
不義理な人。
僕自身、義理人情が強い人間で、義理や人情があればなんでもやってしまうタイプです。でも、それを裏切られたときには、めちゃくちゃ怒ります。社員や自分の身内がそういうことをしてしまったときには、きちんと注意しますね。
Q6
70点くらいですかね。
80点だと合格したみたいになっちゃって自分に甘んじてしまいそうですし、60点だと「もっと頑張れよ」って気持ちになるので(笑)。
Q7
生きがいかもしれませんね。常に何かしていないと、不安になるところはあります。
Q8
休んでないので……。移動時間が休みのようなものですね。最近、少しは休まなきゃな、とは思ってきました。
Q9
クラフトマンっていいなって思うんですよね。バイトの頃もキッチンとかで作るのが好きでしたし、何を作り出すのに憧れがあります。
でも今も、会社の事業自体もクラフトマンシップの気持ちで作っているんです。社会彫刻って言葉もありますけど、僕は自分の人生そのまま使って、ポジティブもネガティブも全部ひっくるめてアウトプットしている感じ。それが今の事業につながっています。
売上だけじゃなくて、どう社会に刻むかとか、自分の哲学や視点をどう反映させるかとか、そういうことを考えながらやっていて、会社の活動には僕の考え方そのままが出てるなって思います。
Q10
「地域の宝物は足元にある」という言葉。
座右の銘がそのまま、会社名「トレジャーフット」になったという感じです。
Profile
プロフィール
田中祐樹/Yuki Tanaka
トレジャーフット代表取締役社長
新卒で株式会社セプテーニ入社後、マーケティングの力をローカルで活かすために沖縄県へ移住。地域密着メディアを運営する株式会社パムローカルメディア代表取締役社長に就任し、地域課題の解決に奔走。その後、株式会社ベネフィット・ワンにてサービス開発部部長代理 兼 新規事業開発の責任者を経て、2018年3月に株式会社トレジャーフット設立。
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