飯田

Interview

Career

「美容は人生に必要なエッセンス」。飯田安紗美さんが描く、J-Beautyの未来とは

#新しい時代のウーマンズリーダー

「Beautyを通じて日本と美容業界の可能性をつなぐ」ことをミッションとし、新規事業やマガジン、複業支援などを通じて、J Beautyを世界へ拡げる活動をリードしている飯田 安紗美さんにインタビュー。日本の美容業界の可能性とは? その未来とは? 飯田さんの人生経験ならではの想いを語ってもらいました。

2025.06.30公開

PROFILE

飯田安紗美 /Asami Iida

トレンダーズ株式会社・常務執行役員。日本生まれ、ブラジルやタイで生活した帰国子女。新卒でトレンダーズ株式会社に入社。美容業界を中心に幅広い案件のアカウントプランナーとして約7年活動。2018年MimiTVがトレンダーズグループにジョインしたタイミングで同社取締役に就任。2021年にはトレンダーズの美容特化型イノベーションファームである『ampule』を立ち上げ代表に。2024年4月からはトレンダーズ常務執行役員に昇格と、12年間で子会社立ち上げから上場会社役員まで歴任する。

ampule公式サイト
ampule公式Instagram

キレイになるためだけじゃない。「美容」こそ、生きる力に

―まず初めに、飯田さんが代表を務める美容特化型イノベーションファーム『ampule(アンプル)』についてお聞かせください。

飯田:『ampule』は、美容業界が抱える課題に対して前向きな変化を起こすために立ち上げた組織です。広告やデジタルソリューションの企画・提案を中心に、マーケティングの側面からブランドをサポートしており、これまでに500以上の美容ブランドを支援してきました。
また、情報発信の一環として、美容業界にとって有益なコンテンツを発信するマガジンの制作にも取り組んでいます。

―なぜ「美容」という分野にフォーカスされたのでしょうか?

飯田:トレンダーズという会社自体が、「トレンドを捉え、新しい時代を創る」をミッションに事業を展開しており、社員の約9割が女性です。美容という分野は、女性ならではの感性や視点が大いに活かせる領域。女性が多い職場であること、そして私自身が女性であることが、自然と美容マーケットに注力する流れをつくりました。

『ampule』を立ち上げたのは2021年。ちょうどコロナ禍で外出自粛やマスク着用が続き、メイクを楽しめない時期でした。商品の売れ行きも落ち込み、「美容って本当に必要なの?」という空気も広がっていたと思います。
でも私は、誰とも会わない日も、自宅にこもる日も、毎日メイクをしていたんです。メイクをすると気持ちが切り替わるし、自分のスイッチが入る。美容は、私にとって“生きる力”であり、欠かせない存在だと改めて実感しました。

美容は、目に見える変化だけでなく、内面的な活力をもたらしてくれるもの。そんな風に感じている人は、きっと他にもいるはず。そういった出来事もあり、「美容業界を次の100年後も続く世界にしたい」という想いのもと、とくに“J-Beauty(日本発の美容)”の価値を国内外に伝えていくために、『ampule』を立ち上げました。

―生きる力という意味では、美容もウェルネスの一部かもしれませんね。

飯田:そう思います。ファッションやアートと同じように、美容を楽しむことは、心を豊かにしてくれるものだと感じています。テクノロジーが進化し続ける今だからこそ、逆に“人にしかできないこと”の価値が高まっていく気がしています。

たとえば、誰かを好きになったときって、いつも通る同じ道なのに違う景色に見えたりしますよね(笑)。そういう、言葉にはしづらいけれど確かにある感覚や意識が、これからますます大切になっていくと思うんです。美容も、そうした感情に寄り添う存在だと思っています。そんな想いから、私たちは“イノベーションファーム”として、美容業界に新しい風を起こしていきたいと考えています。

―コロナ禍を経て、美容業界にはどんな変化がありましたか?

飯田:ポジティブな変化がたくさんあったと思います。もちろん、大変な時期ではありましたが、それがきっかけになって、いろんな常識や価値観が見直されてきました。とくに大手ブランドは大きく変わりましたね。

以前は、パッケージやロゴのインパクト勝負のような売り方が主流でしたが、コロナのタイミングで海外のブランドが次々と上陸し、国内でも新しいブランドが増えていきました。そういった流れを受けて、「今までのやり方では通用しない」と気づいた企業が、挑戦を始めた印象があります。

―まさに、ピンチをチャンスに変えたと。

飯田:はい。沈んだときこそ、変化のチャンスだと思います。私自身も、美容に支えられた経験が何度もあるからこそ、その力を信じて、これからも業界に貢献していきたいと思っています。

―マガジンも制作されているとのことですが、他の雑誌にはないような、深く掘り下げた企画が多くて、とても面白かったです。

飯田:そう言っていただけて嬉しいです。実は私、編集の経験はないんですが、これまでたくさんの現場のマーケターとやり取りしてきて、その中で「今、本当に知りたい情報ってこういうことだよね」という感覚や知識が蓄積されてきたんです。だからこそ、ただの表面的な内容ではなく、美容業界が直面している課題や、変化の兆しをきちんと捉えて伝えていきたいなと思っています。

毎号、ひとつのテーマを掲げて、SNS分析や海外取材、有識者のインタビューなど、さまざまな角度から立体的に掘り下げるようにしています。すべて無料で読めるマガジンとしてお届けしています。

―あの情報量で無料というのは、すごいですよね。

飯田:もう3年くらい続けているんですが、毎回“卒論”を書いてるような気分です(笑)。その分、しっかり情報を集めて、分析して、まとめて。クライアントの方からは「商談のときにすごく役に立った」とか「商品開発のヒントになった」と言っていただくこともあって、そういう声が一番の原動力になっています。

日本人としてのアイデンティティに悩んだ経験が原点

―今回のインタビューのテーマは「新しい時代のウーマンズリーダー」ですが、飯田さんが考える理想のリーダー像とはどのようなものでしょうか?

飯田:私が大切にしているのは、自分自身や会社の想い、そして目指すビジョンを、粘り強く、繰り返し伝え続けることです。たとえば『ampule』では、“Empower J-Beauty”という大きな目標を掲げていますが、それを言葉にして発信し続けることで、共鳴してくださる方々が少しずつ集まってきていると実感しています。

―経済やビジネスの循環といった側面ももちろん重要ですが、やはり“想い”の力が根幹にあるのですね。

飯田:そう思います。これまでの日本の教育では、何かで1位を取ることが評価される、いわゆる競争社会が基盤にありましたよね。でも、これからの時代は「共創」、つまりともに創り上げていく姿勢がますます大切になってくると感じています。

美容業界においても、企業の規模に関わらず、競い合うのではなく、フラットな関係性のなかで手を取り合い、ともに盛り上げていく。そのほうが、結果的にみんなが幸せになれると思っています。そして、その在り方を体現するために、私はトレンダーズという会社を、関わるすべての人にとって“心地よい場所”にしていきたいと考えています。

―その「心地よさ」とは、具体的にどのようなものですか?

飯田:社員はもちろん、社外パートナーや関係者にとっても、トレンダーズが“サードプレイス”になれたら嬉しいですね。サードプレイスとは、家庭でも職場でもない、自分らしくいられる憩いの場のこと。
ただし、“心地よい”というのは、決して馴れ合いや甘えを許すということではありません。価値観に共鳴し合い、互いに良い刺激を与え合いながら、ポジティブな相乗効果が生まれるような場所。そんな、前向きで創造性の高い空間を目指しています。

―今後の展開について、どのように考えていますか?

飯田:まずひとつは、海外への展開です。今年から海外事業部を立ち上げて、2月にはアメリカで日本のブランドを支援してきた「コスメハント」さんを買収しました。“J-Beauty”をもっと世界に届けていきたいと思っていて、その第一歩として、スモールスタートで丁寧に進めていくつもりです。

二つ目は、教育分野での取り組みです。これは私自身の目標でもあるのですが、「元気な日本人を増やしたい」という思いがあって。そのために、子どもの頃から“美”に触れる機会があるといいなと思っているんです。それが、感性を磨く学びにもなる。最近では、ヘア&メイクアップアーティストのイガリシノブさんと一緒に、キッズメイクのワークショップを開催しました。

これは美容のためというよりも、自己発見のため。自分に似合うものや、自分が好きだと思えるものを見つけることで、子どもたちが自信を持てるようにという目的でした。

―情報があふれている今だからこそ、「自分が心地いいと思うものを選ぶ力」が大切かもしれませんね。

飯田:そう思います。いまの日本では、「自分で選んで、その選択に責任を持つ」という人が減ってきてしまっている。“私のために生きる”という覚悟を持てる人がもっと増えたら、日本全体ももっと元気になっていくんじゃないかなって思っています。

―さまざまなことにチャレンジしている飯田さんですが、その原動力は?

飯田:私の原動力は、すべて“悔しさ”からきているんです。人生のなかで、「悔しい!」と思う出来事って、誰にでもありますよね。私はそうした経験をすべてバネにしてきました。「いまに見てろ」という気持ちで自分を奮い立たせてきたんです。

就活のときに商社を受けたんですけど、「総合職と一般職、どちらがいいですか?」って聞かれて、そのときに「一般職ならいろんな人と出会えて、早く結婚できます。でも総合職は海外転勤が多いから、女性の採用は5人しかないです」と言われたんですね。

それを聞いて、「えっ、なんで就職活動の段階で“結婚するかどうか”を職種で決められなきゃいけないの?」って、すごく腹が立って。日本社会、なんて理不尽なんだって思いました。でも同時に、だったら私は仕事も結婚も、どっちも欲張りに叶えられる人生にしようって決めたんです。それはいまの原動力の一つにもなっています。

―そんなこと言われたのですね! ひどい!

飯田:あと、親の仕事の関係で幼い頃に海外で暮らしていたのですが、当時は日本人であることに誇りが持てなくて。もちろん、日本には魅力的な文化や価値観がたくさんありますが、海外では「日本人って○○だよね」といった、少しネガティブなイメージを持たれることも多く、日本人であるというだけでいろいろ言われることがありました。それが本当に悔しかったんです。
「私は私なのに」という思いもありましたし、「どうして日本人として生まれてきたんだろう」と悩んだ時期もありました。思春期は特に、自分のアイデンティティに対して悩んでいて、けっこう苦しかったですね。

ーそれは、海外在住の経験がないとわからない葛藤ですね。

飯田:いまとなっては、海外での生活があったからこそ、俯瞰的に物事を見られるようになりましたし、その視点は仕事にもとても活きています。ただ、当時は本当にしんどかった。でも、だからこそ「日本人として生まれてきたことを、自分の中で正解にしたい」と強く思うようになったんです。私が大切にしている信念は、「自分の人生を正解にする」こと。日本人であることも、私にとっての“正解”にしたい。
「日本を元気にしたい」「J-Beautyを世界に広めたい」と願うのは、そんな経験や思いが背景にあります。
それに、海外で多言語を使ってきたこともあって、耳がいいんですよ。普段からあまりメモを取らず、聞いたほうが覚えられるタイプなんです。文字よりも音で記憶する方が得意で。そういう面では、得たものも多かったと思っています。

ー飯田さん自身は、どんな人生を歩んでいきたいですか?


飯田:私、仕事とプライベートのあいだに明確な境界線があまりないんです。個人の目標と会社の目標が、自然と重なり合ってる感覚があります。友人も、同じ志を持つ仕事関係の方が多いですね。
先ほどもお話した、「自分の人生を正解にしていく」という信念を軸に、チームのみんなやクライアントさん、関係者の方々と手を取り合いながら、Beautyの力を通して日本を元気にしていきたいと思っています。

―「自分の人生を正解にしていく」って、いいですね。どんな環境でも、何が起きても乗り越えられる気がします。

飯田:心が折れそうになることももちろんありますが、この信念があることでだいぶ気持ちが楽になります。経営者として、さまざまなことを決断していかないとならない場面も多々ありますが、「失敗したら」「間違えていたら」などと不安になるよりも、「決断したことを正解にする」ことに集中すればいいですから。それでも気が落ちてしまっているときは、温泉やサウナに駆け込んで、思考を一時停止させています。これは、すごく大事! 無理してもいいことないですから。自分がいい状態であることが大切。休みどきを自分で知っておくことも、リーダーとして大事なことかもしれないですね。


「メイクの必要性」が問われた、コロナ禍のマスク時代。しかしここで立ち返ることは、「メイクとは一体誰のものなのか」ということ。

もちろん、誰かのためにおしゃれやメイクをすることも、とても素晴らしいこと。でも、自分のためにキレイを磨くのは、とても尊く、男女問わず心も豊かにしてくれるのではないでしょうか。

この時期に「御自愛」という言葉がフィーチャーされましたが、「自分が心身ともに健やかになる」を目指して、美容を今一度、考えてみてはいかがでしょうか。


取材・文/竹尾園美

飯田

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