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“ビリギャルから起業家へ”小林さやかさんが本気で挑む日本変革。
『ビリギャル』として一躍有名になった小林さやかさん。偏差値30から慶應合格というサクセスストーリーの主人公でありながら、彼女が伝えたいのは「頑張れば夢は叶う!」なんていう、単純な話ではありません。教育や人生について独自のスタンスで発信を続ける小林さんに、現在の活動や目指しているものを聞いてみました。
2025.06.24公開
小林さやか(Sayaka Kobayashi)
AGAL 株式会社 代表取締役/講演家。高校時代はギャルとして自由奔放に過ごすも、恩師・坪田信貴氏との出会いをきっかけに、一念発起。偏差値30台からの猛勉強で、慶應義塾大学総合政策学部に現役合格を果たす。その実話はベストセラー『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』』として書籍化・映画化され、多くの共感と話題を集めた。大学卒業後はウェディングプランナーなどを経て、2021年聖心女子大学人間科学専攻修士課程修了。2022年より米国コロンビア大学教育大学院にて認知科学を研究。現在は「大人のマインドセットを変える」ことをミッションに掲げ、大人の学び直しや英語教育の場づくりを手がける。2024年には教育事業会社AGAL(アガル)を設立。英語学習サービス『AGEL ENGLISH(仮)』を始動。講演・メディア出演多数。
小林:最初に私がモデルとなった本が出版されて、映画化されて、話題になって。いろんな反響をいただきました。でも実は、その渦中にずっと思っていたんです。「この現象って、いったいなんなんだろう?」って。
だって、冷静に考えると「受験して大学に合格した」だけじゃないですか(笑)。もちろん「無理だ」と言われたなかで頑張った部分もあるけど、似たような経験をしている人は他にもたくさんいるはずで。だから、なんで私だけがこんなに取り上げられるんだろう、っていう疑問はずっとありました。
小林:悩んでいたわけじゃないのですが、その疑問があったからこそ、「なんで私は“ビリギャル”になったんだろう?」と、自分を掘り下げる10年になったんです。そんな思いがありながら、全国各地で講演会もさせていただきました。教育に関心を持ったことで、2019年に聖心女子大学大学院人間科学専攻修士課程を修了、2022年には米国コロンビア大学教育大学院に留学と、学習科学や認知科学などいろいろ学び、チャレンジしてきたわけですが。
その過程で、「ああ、これはもう“使命”なんだろうな」って、ある時ふと腑に落ちたんですよね。私がここまで経験してきたことには、ちゃんと意味があるんだろうって。だから、勢いで会社を立ち上げたというよりは、10年かけて“満を持して”って感じなんです。
小林:そうですね。“ビリギャル”としての活動や留学を通して私が伝えたいのは、受験がどうだとか、英語の勉強法がどうとか、そういったノウハウ的なことではなくて。それらはツールでしかないんです。そして私が奇跡的に成功したように見えるのは、地頭がいいわけでも、特別な才能があったわけでもない。では、何が大切か。それは端的にいうと「マインドセット」なんです。日本人の大人のマインドセットを変えたいと思ったことが、事業を始めたきっかけです。
小林:はい。AGALのミッションは、「日本の大人のマインドセットを変える」ことです。なぜこの考えに至ったかというと、この10年で痛感したのは、日本人の自信のなさ。それって、日本の教育とか文化に深く根付いていて、簡単には変わらない。でも、だからこそ変えたいって本気で思いました。空気ごと変えるくらいのこと、やらなきゃ意味がないなって。
小林:全然違いますね。特に欧米の人たちは、小さいころから“伝える力”を鍛えてきてるんです。たとえば「Show & Tell(ショー・アンド・テル)」といって、英語圏の小学校などで行われる教育活動で、児童が何かを見せて(Show)、それについて話す(Tell)という発表スタイルがあるのですが、たとえばその日に身にまとっているリボンについて話すとしたら、そのリボンはいつどこで手に入れて、なぜ今日それを選んだのかを語るんです。そういった練習を、日常的に行っている。
小林:そうそう。だから彼らは人前で話すことにビビらないし、「私はこう思う」って当たり前のように言える。日本の教育にはあまりない特徴ですよね。一方、日本人が得意なこともたくさんあります。例えば、数学!
小林:ズバ抜けてますよ。私、もともとそんなに数学得意じゃないですし、学生時代も10点以上取れればいいくらいだったんですけど(笑)、それでも留学中、クラスでまあまあいい成績残せたくらい。欧米人は数式を解くときに、「なぜこうなるのか」と考え始めちゃうんですよね。理屈で納得しないと進めない。一方でアジア圏の人は「そういうもんなんだ」とスッと受け入れて、手を動かせるタイプが多い。だから、日本人は実は世界レベルで見ても、数学的思考にめちゃくちゃ向いていると思うんです。
いずれにせよ、日本人は世界的に見ても優秀な人材っていっぱいいると思っていて、なのに自信がないのってすごくもったいないな、と。
小林:このサービスは“大人のための英会話”。英語が話せるようになるのはもちろんなんですけど、狙っているのはもっとその先。「大人のマインドセットを変えること」が、真の目的なんです。
小林:そうです。子どもって、本来めちゃくちゃ好奇心旺盛で、興味・関心が爆発している存在。その芽をつぶしているのは、実は大人だったりする。日本人って、「こうあるべき」に縛られがちで、自分の枠を知らず知らずのうちにガチガチにしてる人が多い。その常識の枠を外して、英語力だけじゃなくて人生が変わるようなサービスにしたいと考えています。
小林:日本人の多くが、英会話に苦手意識を持っていますよね。実は英語力を伸ばすために何が大切かということ、「臆せず話すこと」なんです。そして、それが最も難しいと感じているポイントでもある。
小林:このサービスでは、その意識を変えていきたいんです。というのも、私自身の実体験でもあるんです。あるときマインドセットが変わった瞬間、英語力がぐんっと上がって。
小林:そう。それこそ私もコロナ禍のときに「英語を話せるようになりたい!」と思って、2年ほど1日8時間勉強して、TOEFLテストも20回ほど受けたりもしたのですが、スコアは上がれどまったく話せるようにはならず。
留学に行けば変わるかな、と思ったんですけど、最初は全然変化を感じられなくって。でも、あるとき吹っ切れたんです。「もう間違っててもいい、変な英語でもいいから、とにかく話そう」って。恥を捨てて、コミュニケーションをとりまくったら、意外と伝わるし、友達もできるし、いい事づくし。
そこからですね、英語力が一気に伸び始めたのは。「完璧に話そう」とする意識を手放して、まずは飛び込んでみる。その大切さに気づいたんです。これって、英語に限らず何でもそうだと思っていて。
たとえば、自転車に初めて乗ったとき、車の運転、泳ぐこと…全部、頭で理解する前に、体で覚えていきますよね。試行錯誤を繰り返しながら、ちょっとずつできるようになる。で、少し前より上手になったときのあの嬉しさ。それが「できるかも」という自信になって、もっとやってみたくなるんです。
最初からレベルの高いところばかり見てしまうと、なかなか成果が出ないし、「向いてないのかも」と思ってしまう。だからこそ、小さな成功体験をちゃんと積み重ねていくことが、すごく大事だと思うんです。
小林:「成功」って聞くと、みんな億万長者だとか、テレビに出てるとか、そういうことを想像される方が多いのですが、そんなスケール大きく考えなくていいと思うんです。昨日できなかったことが今日できた。それだけでなんだか嬉しい。そんな体験こそ、「成功」なんじゃないかな、と。
小林:そう。私も、ありがたいことに「すごく成功されてますよね」なんて言っていただけることもあるんですけど、もともと特別な勇気がある人なわけでもなく、小さい頃は自信がなくて、自分から友達に声をかけられないような子でした。小さな挑戦と成功を積み重ねたうえで、いまの自分に辿り着いたんだと思います。いきなりエベレストに登るのは無理でも、まずは高尾山。登れたら、次は富士山。そのくらいのステップ感でいい。
ゼロか百で物事を考えると、途端に自分が才能のないちっぽけな人間に見えて、自信がなくなっちゃうんですよ。
小林:私を大学合格まで導いてくれた坪田先生も、高校2年のギャルだった私の学力テストをやったときに、「ああ、この子の学力は小学校4年レベルだ」って判断したんですよね。それで、小学校4年のドリルからやらせてくれたんです。
これをやったことによって、私にエンジンがつきました。「これだったらできる!」って。そこから、毎日勉強することがまったく苦じゃなくなった。大事なのは、ここなんですよ。いきなり高い目標を掲げるんじゃなくて、“今の自分に合ったレベルのことをやって、少しずつ自信を積み重ねていく”ということ。
これを心理学では「自己効力感」といいますが、こうした小さな成功体験を積んでいくことで、長距離を走れるようになる。
もうひとつ大事なのは、「なぜ自分はこれをやっているのか」という価値を、自分自身でちゃんとわかっていること。単に「勉強しなきゃいけないから」だと、気持ちが続かない。目指す先が見えているからこそ、人は努力を続けられるんだと思います。
小林:今は正式なリリース前の段階で、英語に強い苦手意識を持っている方たちにモニターとして参加してもらっているところです。むしろ少しできるくらいの人には、もう少し先でもいいかもしれないなと思っていて。
英語が話せないことをコンプレックスに感じていたり、人前で話すこと自体が怖かったり、人の目を見るのも苦手だとか、そんなふうに、自信がない方々に受けてほしいと思っています。このサービスを通して、自信をつけてほしいんです。
小林:そういった受講生に集まってもらっているので、いきなりネイティブの先生と話すのは心折れちゃうと思うんです。帰国子女でもハードルが高い気もするので、大人になってから英語を勉強されたような、英語学習の大変さや面白さを知っているている日本人の方にコーチについていただいています。
受講生にはまずは日本語で自分の言いたいことを文章にして考えていただき、それをコーチにナチュラルな口語の英語にしてもらいます。それを完コピしてもらって、オンライン授業で発表してもらいます。それを週に一回行う2カ月間のプログラムです。
小林:マインドセットを変えることが目的なので。初心者の人でも、何回も練習して覚えて口に出すぐらいだったらできるんですよ。
グループレッスンにしているのもポイントです。マンツーマンだと、たとえば私みたいな“三日坊主の天才”みたいなやつは、甘えちゃってやんないんですよ。だからある程度のプレッシャーが必要なんです。私も何かを始めるとき、自分でプレッシャーをかけることで続けているタイプです。
グループにすることで、「足引っ張りたくないな」「私だけできないのイヤだな」といった気持ちが生まれます。こういった心理的な圧力のことを“ピアプレッシャー”といいます。
小林:本当にそうですね。学習科学や認知科学などをここ数年で学んできたことで、ビリギャルのストーリーの解像度が上がった気がします。ただ運や縁でここまできたわけではなくて、その背景にこういうロジックがあったから、というのが説明しやすくなりました。
小林: 受験が良いか悪いかという話ではなくて、それは人それぞれの人生観や価値観によって違うものだと思っています。
私の考えでは、「受験=自分にとってワクワクできる環境を選ぶ手段」。これから先、どんな価値観を持つ人たちと時間を過ごしたいのか、どんな場所に身を置きたいのか。そういった視点で選ぶといいと思っています。
小林:私の場合はすごくシンプルで、「嵐の櫻井翔くんみたいなイケメンにたくさん出会いたい!」っていう不純な(?)動機でした(笑)。でも、そういうので全然いいと思っていて。きっかけは軽くても、「自分はこういう世界に行きたいんだ」とちゃんと言語化できているかどうかのほうが大事なんですよね。
親に言われたからとか、なんとなく友達が行くからとか、そんなふうに選んだ場所って、あとからしんどくなったときに誰かのせいにしやすくなってしまう。よく講演会で学生の相談に乗るんですが、「志望校があるけど偏差値が20足りません。どうすればいいですか?」って聞かれて、「なんでそこに行きたいの?」って尋ねると、意外と答えに詰まっちゃう子が多いんです。
小林:そうだと思います。だからこそ、「自分で考えて、選んで、必要なサポートをお願いして、最後まで走りきる」っていう経験は、人生にとってすごく意味がある。そういう意味で、受験ってすごくいいトレーニングになりますよね。もちろん、他にやりたいことがあるなら、そっちに全力投球するのもアリだと個人的には思います。
小林:やっぱり、まずは親が自立することが大事なんじゃないかなと思います。親が失敗を恐れずに何かに挑戦して、少しずつでも成功体験を積み重ねていく。その姿を、子どもたちはちゃんと見ているんですよね。「自分もああなりたいな」って、自然に思うものだと思います。
親は受験のプロじゃない。でも、人生を前向きに楽しむことにおいては、子どもにとっての一番身近なロールモデルになれる。だからこそ、まずは大人が自分の人生を謳歌している姿を見せることが、いちばんの教育かもしれません。
小林:大人のマインドセットを変えるには、講演会とか本じゃなくて、大人自身が体験をもって価値観とか人生観を変えていくしかたないと思う。だから起業したんです。ビジネスの講演とか、本だけじゃなくてやっぱりこう体験型で、人にもっとコミットしてもらえるサービスを作るしかもうないと思ったんです。まずは英語学習サービスから始めましたが、その先はさまざまな事業を考えていきたいと思っています。
小林:誰かに必要とされていて、なおかつ誰かの役に立てている、そんな人生がいいなと思っています。別に、たくさんの人に影響を与えたいとか、大きなスケールで貢献したいということではなくて。
もちろんビジネスをしていると、ある程度の母数を見据える必要もあります。そうじゃないと、事業として広がっていかないので。けれど、たとえば10年後に自分の家族ができて、「この幸せを守れたら、それでいい」と思える時期がきてもいいなと思うんです。
どんなフェーズであっても、「自分が必要とされている」「誰かの役に立てている」と感じられることが、自分にとっての幸せなのかもしれません。そんなふうに誰かに貢献できる人生を歩んでいきたいですね。
小林:はい、そうですね。ありがたいことに。
小林:そうですね、個人的には「好きを仕事に」より「“できる”を仕事に」のほうがいいのでは、と思いますね。たとえば、ゲームが好きな人がみんなプロゲーマーになりたいかというと、そうとは限らないですよね。
大切なのは、自分が「できる」と感じられること、あるいは「これができるようになったら嬉しい」と思えることを軸にキャリアを選ぶことだと思います。
先ほどからお話している「自己効力感」とつながってきますが、小さな“できる”を積み重ねていくことで、人は自信を持てるようになります。
そして不思議なことに、そうやって“できる”が増えてくると、それが“好き”にも変わっていくんですよね。
得意なことをベースにしていく方が、きっと「嬉しい瞬間」が増えていく。そうやって、自然にウェルビーイングも高まっていくんじゃないかなと思っています。
小林: ほんとに。誰だって、嬉しいって感じられる瞬間がある方がいい。もちろん、ずっと楽しいだけじゃないし、つらいこともあるけれど、嬉しさの積み重ねが“幸せ”に近づいていく感覚はある気がします。私自身、そんなふうに生きていけたらと思っています。
受験の良し悪しが問われる現代ですが、物事の焦点はそこではないのかもしれません。受験を受ける・受けないも自分の選択。大切なのは、自分の意志がそこにあるのかどうか。そしてその行動やプロセスが、自信につながることもあるはず。
それを体現しただけではなく、日本人がより自信を持って輝けるための事業を始めた小林さん。マインドセットを変えながら英語が話せるようになるなら、まさに一石二鳥です。
サービスのローンチはこれから、とのこと。SNSを要チェック!
取材・文/竹尾園美
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