013

Interview

Career

絵描き・アニーさんがつくる、言葉の“チカラ”を集めた一冊の本

#グッドバイブスウーマン #新しい時代のウーマンズリーダー

バンライフをしながら、絵描きをするアニーさんにインタビュー。アニーさんは「生き方」を探究するため、さまざまな分野で活躍する人々にインタビューした本を自主制作。制作に至った経緯、その想いを語っていただきました。

2025.05.26公開

PROFILE

アニー

アーティスト。アメリカ人の父と日本人の母の間に生まれ、京都で育つ。2023年4月より、自身の知見を深めるため、車にベッドと画材を詰め込み、各地での奇縁良縁を楽しみながら日本中で創作活動を続けている。

@annielenaobermeier

他人の言葉が、自分自身を映し出す

―絵描きであるアニーさんが自費出版したインタビュー本『LAMPPOST』の第二弾を制作中とのことで。この本を作ろうと思ったきっかけは?

アニー:2017年くらいかな、アメリカでベストセラーになった本、『自分で「始めた」女たち』を読んで、すごく感動したんです。112人のクリエイターや起業家など、さまざまな分野で活躍する女性たちのインタビュー集で、彼女たちの仕事観や生き方が綴られていました。この本がインスピレーションの源となっています。

私は小さい頃から絵を描くことが好きでしたが、「会社員になることが当たり前」という価値観の中で育ってきたので、「自分の好きなことで生きている人が、こんなにもいるんだ!」と、衝撃を受けました。同時に、この本の言葉たちは自分の中にある“ワクワク”をそっと照らしてくれたような感覚があって。

ああ、人の言葉というのは、自分の中に眠っている“光”を導いてくれるものなんだな、と実感したんです。それで、「私もいろんな人の話を聞いてみたい!」と思ったんですよね。その思いを込めて、このプロジェクト、そしてタイトルを「LAMPPOST(外灯)」と名づけました。人生を夜道にたとえるならば、他の誰かの生き方が、道を照らす光になる……そんなイメージです。

―自分の道を照らしてくれる光。

アニー:はい。大学を出て、大手の会社に入って働くという道しか知らなかった私に、その人がその人らしく生きることで光り、知らなかった道を教えてくれたような感覚をそのままタイトルにしました。

―第一弾は「生き方と働き方」というサブタイトルでした。第二弾は「人間的生き方探求録」とのことですが。

アニー:インタビューを始めたのは4年前で、私自身がとても自信がなく、未来に対する不安がいっぱいのときでした。なので、「あなたの生き方と働き方、教えてください!」といったような問いを続けた自分探しの旅でした。でもインタビューを重ねるうちに、「結局、すべては自分の中に答えがある」と思ったんです。「光は自分の中にあるじゃん!」って。それゆえに、「人に聞く意味ってなんだろう?」と悩んでいる時期もありました。

そうやって悶々としながらもインタビューを重ねていくうちに、「誰かの言葉が自分の中で反応することで、自分の答えを知ることができるのではないか」という風にも考えるようになりました。自分と違う価値観であったとしても、それに対する反応を知ることで自分を知ることもできる。それも、“光”ということに気づいたんです。それで、第二弾は第一弾より「生き方」そのものに、よりフォーカスしました。

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5月に完成した『LAMPPOST 人間的生き方探求録』

―「他者を知ることで、自己理解を深めることができる」ということですよね。

アニー:そうですね。私自身がインタビューをしていくことで、自分を深く知ることができました。それを一冊の本にまとめた形なので、読者のみなさんにも、自身の生き方や在り方を見つけるきっかけになってほしいと思っています。

―どちらもクラウドファウンディングを使用して資金集めをされたとのことですが、なぜ紙媒体にこだわったのでしょうか。

アニー:最初は「note」に公開していたんです。でも次第に、「本」というひとつの形に残したい、という思いが強くなっていきました。本であれば、たとえ中身を読んでいなくても、「ここにはこういうことが書かれている」ということを示すことができますよね。

もちろん、WEBやスマートフォンといった文明の利器も便利でありがたい存在です。でも、デジタルメディアでは、どうしてもメッセージ性が弱くなる気がするんです。何かを本気で伝えたいときは、アナログの力が一番強いと思います。

そして、「本」という形があることで、誰かのお守りのような存在になったら素敵だなって。もちろん、それは私自身にとっても同じです。

失恋、ありがとう。すべては必然だった

―アニーさんが描く絵も文章も、とても素敵ですよね。ただ“上手い”ということではなくて、インタビューを受けた方にも、読む側にも、それぞれに対する敬意のようなものが伝わってくるというか。決して自己満足ではないように感じました。

アニー:そんな風に言っていただけるのは、本当に嬉しいです! 私が絵を描くことを仕事にし始めたのは、友人の似顔絵や結婚式のウェルカムボードがきっかけだったんです。もしかしたら、その影響が大きいかもしれません。「相手に喜んでほしい」という気持ちが根っこにあるので、できるだけ客観的な視点を持つように意識しています。でも、改めていま一冊目の文章を読むと恥ずかしい! それだけ成長できたのかな、とも思いますが……。

―似顔絵を描き始めたきっかけは?

アニー:学生時代、アメリカに1年間留学していたのですが、当時は英語力がそれほどなかったので、言葉だけで人と仲良くなるのが難しかったんです。

そこで、「あなたに会えてよかったよ」という気持ちを伝えたくて、似顔絵を描いて渡していました。そしたらみんなすごく喜んでくれて、ちょっとした人気者になれたんですよ(笑)。

そのうち、「お金を払うから描いてほしい!」という人も出てきたんです。「あ、なんだか商売の香りがするかも」と思ったりもして(笑)。でも、自分がしたことに価値を付けてくれたような感じがして、自信にもなりました。

SNSでも発信し始めたら、帰国後も似顔絵やウェルカムボードのオーダーの依頼をいただくことができて、「このままフリーランスをやっていけるかも?」と、思っていました。前述した『自分で「始めた」女たち』に感銘を受けたあとということもあり、意気揚々としていたのですが、そう思った矢先にコロナが蔓延してしまって。

―たしかに、コロナで結婚式が激減しましたよね。

アニー:そうなんです。それで仕事がなくなってしまって、「え、どうしよう」と文字通り路頭に迷ってしまって。同じ場所でくよくよと悩んでいても仕方ない、と思い、実家のある京都から離れて東京へ行ったんです。特に目的はなかったのですが、上京すれば何かが変わるかも、と。いや〜、でも、むしろそこで爆病みしました。東京に住んでいた頃は、私にとって暗黒時代でした。東京が悪いわけじゃないんですけど、まわりにはキラキラした人がたくさんいて、どうしても人と比較してしまうし、「私には何もない」と、鬱々として塞ぎ込んでしまって。「自分が何をしたいのか」「果たして自分らしさとはなんなのか?」。そんな問いがぐるぐると、自分のなかで巡っていました。その頃から、いろんな人に「どうしてあなたは、あなたらしく生きられるんですか?」と質問するようになって、その記事をnoteに書き始めました。

―そこで病んでいなかったら、『LAMPPOST』は生まれてなかったわけですね。

アニー:そうなんですよ。それがきっかけでいろんな出会いへと繋がっていったので、すべては必然だったように思います。

―日本全国、いろんな場所の方にインタビューされていますが、どのように出会っていったんですか?

アニー:最初は知り合いのつながりでインタビューをしていって、それを「note」で毎週更新していたのですが、記事を読んでくれた人の中から、「宮崎にとても素敵な人がいて、ぜひ会って話を聞いてもらいたい人がいる」と連絡くださった方がいたんです。なんとなく、「これは行かなければ!」と直感して、連絡をいただいた1週間後には宮崎に飛んでいました。体当たりで「取材させてください〜!」とお願いしてお話を聞かせてもらったのですが、そのときに出会った宮崎の自然との生活が本当に良くて。それがそれまで感じたことのない心地よさで、なんというか、自分の中の世界がブワっと広がったんです。こんなに世界は広いんだな〜って。そこから、「自然に還るような生活がしたい」と思うようにもなりました。自然の中にいるにほうが自分が自分らしくいられる気がして。世界が、一気に彩り始めたような感じがしました。

―今はバンライフを送っているそうですね。

アニー:はい。寒い冬の時期は京都の実家で過ごしていますが、それ以外の季節は車で旅をしながら暮らしています。2023年は京都より東側、北海道までぐる〜っとまわって、昨年は西側に向かって出発し、九州と四国までにいって帰ってきました。

―バンライフを送るようになったきっかけは?

アニー:少しプライベートな話になってしまうのですが、きっかけは失恋だったんです(笑)。小笠原の父島に取材で訪れた時に出会った方とお付き合いをしていて、二人で北海道旅行を計画していたのですが、直前になって別れてしまって。ぽっかり時間もできて、旅行のために貯めていたお金もあったので、「せっかくだから有意義に使いたい!」と思って、新潟の自動車学校で免許を取ることにしたんです。それでもう、傷心した勢いで旅をしてしまおうと思って。それからバンライフを始めました。

しかも、新潟でも素敵な出会いがいっぱいあったんです。インスタで新潟の花火大会の投稿をシェアしたら、『LAMPPOST』で取材した方から「僕も新潟にいるよ!」とご連絡をもらって、一緒に飲みに行くことになったんです。その飲み会が新潟市のカルチャーの中核にいるような人たちがいっぱいいて。その中にLAMPPOSTを読んでくださってた方もいて、「これからギャラリーを開く」と。「旅が始まったら来なよ!」と呼んでくださり、個展を開かせてもらうことになったんです。本当にありがたい巡り合わせでした。

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バンライフを始めて、世界が広がった

―まさに、行くべくして行ったのですね。

アニー:そうなんです。しかも、その展示が始まる前に立ち寄ったカフェで個展のDMをお渡ししたら、オーナーさんが私の絵を気に入ってくださって。「もしよかったらうちのお店で壁画を描いてくれませんか?」と依頼してくださったんです。今年は新潟県弥彦村のアーティスト・イン・レジデンスに一年住む予定なのですが、それもそのオーナーさんがくださったお話なんです。

―失恋していなかったらその出会いもなかったということですね!

アニー:いや、本当にそうで。失恋してよかった!(笑)。どんな悲しいことが起きても、自分にとって必要な出来事なんだろうな、と思えるようにはなりました。これはある人の受け売りの言葉なのですが、「過去は変えられる」。過去は、今の自分の視点から、どうその出来事を捉えるかでしかないのだから、と。とはいえ、大変なことの渦中にいるときは、すべてをそんな風に捉えられるわけではないんですけどね。

―アニーさんは絵描きを本業とされているわけですが、近年、AIが絵を描く時代にもなってきました。そんな今、人が絵を描くことには、どのような意味があると感じますか?

アニー:AIが生み出すアート、私は好きです。とても面白いと思うし、これからの時代、人間を楽しませてくれる役割を担う存在になると思っています。技術的な面でも、人よりAIのほうが優れていくのではないでしょうか。あるいは、すでにそうかもしれない。

そのうえで人間にしかできないことがあるとすれば、「そこに魂が宿っているかどうか」なのだと思います。

とても言語化が難しい部分ではありますが、人間がピュアな気持ちで描いた作品には、何かが入っているように感じます。そしてそれは、見る人の心を強く揺さぶる力がある。

―それは、本当にそうですね。

アニー:だからこそ、自分が誰かに買ってもらうための商業的なものだけではなく、自分の中の抑えきれずに湧き上がる衝動のようなものを、どう形にしていくかが大切だと感じています。今の自分の絵も好きだけれども、もっとピュアな表現したい。まだまだ探求の途中です。

―絵を描くときは、どんな感覚で描いていますか?

アニー:音楽を聴きながら、フロー状態で描くことが多いですね。あまり、考えすぎずに描くほうがうまくいくみたいです。もともと、考えすぎるたちなので頭の中で設計図を描いてから取りかかりがちなのですが、いろいろ試してみた結果、自分にとって一番しっくりくるのは、音楽に集中して、体が自然に動いているような感覚のときだとわかってきました。まるで、意識より先に手が動いている状態。

―いろいろ試すことで、自分のことがわかってきますよね。

アニー:そう思います。自分のデータを取っていくような感じです。

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創作の時間は、なるべくピュアな自分で

「I shoud」ではなく、「I want」を大切にしたい

―さまざまなことにチャレンジしていますが、行動するときの判断基準は?

アニー:自分がやりたいと思うかどうか、ですね。以前は、「やらなければならない」=「I should」が多かったんです。でもそれはすごくしんどいし、重たい。そうではなくて、「I want」を軸に選んでいけば、どんな結果であっても、楽しく、軽やかに動いていけるので。

―その、「やりたい」(I want)って、自分の状態がいいときに湧き上がってくるものだと思うのですが、ご自身の軸をキープする方法はありますか?

アニー:まずは、睡眠をしっかりとること。あとは手帳にジャーナリングをしています。「マンダラルナー」というブラジル南部の女性たちが作った手帳があり、これがすっごく素敵なんです。アーティストによるイラストやポエムが散りばめられていて、毎日の自己観察をサポートする魔法のような手帳です。自分を観察し、振り返り、夢、意図、行動、感覚、身体の知覚を毎日記録していくことで、自分に起こるプロセスを書き留めていけます。その記録をしているうちに、「自分は7.5時間の睡眠が適している」ということもわかりました。

―自分との対話は非常に大切。

アニー:はい。私はバンライフを送っているので人と接することが少ないんです。一人の時間が多い。だから、自分との対話を人一倍しているかもしれません。今年の夏からは、もっと感覚を研ぎ澄ましたいという欲求があり、一年間くらいSNSをやめようかなと思っています。社会と断絶してみようかな、と。

―いいですね。

アニー:仕事的にも「この時間に寝なきゃ」とかもないですし、寝たいときに寝て、起きたいときに起きているのですが、バンライフ中は日が沈んで暗くなると、「車の中に女性がひとりでいる」と知られるのがちょっと怖かったりもするので、できるだけ早めにカーテンを締めて寝るようにしていて。そうやって暮らしていたら、本当に不思議なことに、朝日が昇るちょっと前に、ふっと目が覚めることが増えました。ぱっと目を開けたら、まさにご来光、みたいな瞬間に立ち会うことが何度もあって。

スッと目覚めるようなその感覚をテーマにした絵を描いて、個展に出したんです。その絵を見てくださってた方に経緯を話すと、「鳥と同じ現象」だと教えてくれた方がいて。鳥って朝、さえずるじゃないですか。あれって太陽が昇って、植物に光が当たると、光合成が始まって、一気に酸素が放出され、その酸素に反応して鳥たちはさえずるんだそうです。だから私も酸素に反応して目覚めてるのかも(笑)。

―鳥のさえずりで目が覚めるのではなく、鳥たちと同時に起きるんですね(笑)。

アニー:ワイルドですよね(笑)。山や海辺で寝ることが多いので、感覚が動物的になってきているようです。実際、朝日が昇る直前は、空気が変わるんですよね。

―ご自身の探求をし続けているアニーさんですが、アニーさんはどんな「在り方」でいたいと考えていますか?

アニー:私がモットーにしている言葉があって、それは “Funky, but Elegant”。自分に忠実に、おもしろおかしく突き進みながらも、しなやかさを忘れずにいたい。そんな自分でありたいと思っています。

私、根がすごく真面目なんですよ。社会的な課題、環境保全などにも興味がありますし、真剣に熱く語ってしまいがちだし、つい考えすぎてしまうところがある。だからこそ、自分が軽やかであることが、自分にもまわりにとってもいいと感じていて。

―軽やかさとしなやかさは、これからの時代に必要なマインドですね。

アニー:はい。それぞれが羽根を生やして、生き生きと生きられるような世界でありますように。それが、今の私の願いです。


誰もが、人生に迷うことはある。迷うからこそ、価値あるものが生まれるし、「自分の人生」を生きることができるのかもしれない。私たちは、AIではないのだから。

アニーさんや登場した人たちすべてのエネルギーが込められた一冊の本、『LAMPPOST』。あなたの夜道を、そっと照らしてくれるかもしれません。

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絵描き・アニーさんがつくる、言葉の“チカラ”を集めた一冊の本

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