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「ゴールは同じでも、道のりは自分流」これからの時代が求める働き方改革とは
医療×テクノロジーを組み合わせた事業を展開する「Neautech(ニューテック)」取締役・村山しりかさんにインタビュー。取締役として経営の第一線に立ちながら、一児の母として子育てにも重きをおき、さらに沖縄県からリモート勤務をしている村山さん。仕事にも家庭にもフルコミットしている村山さん流の「バランスの取り方」とは?
2025.04.25公開
村山しりか/Shirika Murayama
1984年8月14日生まれ。東京大学医学部を卒業後、内科医として勤務し、医療現場での 経験を積む。その後、臨床医での経験を活かしてもう少し幅広い視点で医療ビジネスに携わりたいと思い、ヘルスケア領域の コンサルティングに挑戦するためコンサルティング会社に転職。その後、全国展開する美容皮膚科グループで事業部長として経営に携わる。美容医療は「なりたい自分」に近づくためのポジティブな手段として患者に支持されていることに共感。より幅広く価値を届けることができるオンライン診療を組み合わせ、 “オンライン× 美容”のサービスを構想。そのタイミングでNeautechのメンバーと出会い、このチームなら自身が目指す世界を実現できる と確信し、2022年にNeautechに入社、取締役に就任。現在は沖縄県在住。
村山:幼い頃、アトピーや喘息で頻繁に病院に通っていたことが大きいですね。医師という存在が、私にとってはとても身近なものでした。その延長線上に、医療の道がありました。
村山:そうですね。皮膚科での治療を続ける中で、症状は改善されていきました。でも、その過程で思ったのが、肌の調子って気分にかなり影響するなってこと。肌がきれいだと気分が上がるし、人と話すときもちょっと自信が持てる。そう考えると、仕事や恋愛にもつながるし、ファッションと同じで「自分を表現するひとつの手段」なのかなって。肌をきれいにすることで、前向きになれる人が増えたらいいなと思って、この仕事を選びました。
村山:そうなんですよね。あと、普通の医療って「悪いところを治すためのコスト」というイメージが強いじゃないですか。でも、美容医療はちょっと違う。「なりたい自分になるための投資」としてお金を払う分野なんですよね。それって前向きで楽しいし、人を笑顔にできる。医療の中でも、すごくワクワクする分野だなと思ったのも、美容医療を選んだ理由のひとつです。
村山:私たちは「ANS.(アンス)」というオンライン完結型の美容医療サービスを提供しています。医師がオンラインで問診を行い、患者さんの肌悩みに応じた医療用医薬品を処方する仕組みです。市販薬やサプリメントとは違い、医療機関で取り扱っている処方薬なので、それぞれの肌の状態にしっかり対応できるのが大きな魅力ですね。
もちろん、信頼できるクリニックに通うのも良い選択肢ですが、オンライン診療の最大のメリットは“気軽さ”だと思います。時間的にも経済的にも負担が軽く、さらに精神的なハードルも下がる。特に「電話が苦手」「初対面の人と話すのが緊張する」という方には、とても便利なサービスになっていると思います。
村山:はい。ニキビやシミ、くすみなどの症状は、オンラインでも十分に治療が可能です。また、妊娠中や授乳中で使えるお薬であったり、その方の既往歴なども確認したうえで、処方しています。ただ、症状によっては難しいケースもあります。その場合は、適切なクリニックの受診をおすすめするようにしています。
村山:特に多いのは、子育て中のママさんたちからの声ですね。育児で忙しく、自分のことは後回しにしていたけど、「少しだけ余裕ができたから、そろそろ自分にも手をかけてあげたい」と思ったタイミングで利用される方が多いです。症状が改善することで、「ママとしてだけじゃなくて、自分を取り戻せた気がする」とか、「自分に自信が出てきた」とおっしゃる方も多いです。ご家族に「なんだか綺麗になったね」と言われて喜ばれている、なんてエピソードもよく聞きます。
また、ニキビなどの肌悩みを抱えていた若い世代の方からは、「友達との付き合いの中で自信をなくしていたけど、肌がきれいになって明るくなれた」とか、「メイクやおしゃれを楽しめるようになった」という声もあります。ファンデーションがいらなくなったり、「隠すことばかり考えていたけど、すっぴんのままで外に出られるようになったのが嬉しい」と話してくださる方もいて、そういう変化をサポートできるのが嬉しいです。
村山:「Neautech」では、今は「肌」に特化した事業を展開しています。でも、目指しているのは、単に肌をキレイにすることだけではなく、その先の「自己実現」をサポートすること。つまり、「その人が本当に在りたい姿」に近づくための手助けをする会社になりたいんです。
肌が整うことで自信がついたり、新しい一歩を踏み出せることってありますよね。でも、本当の意味で自分らしくいられるためには、単なる外見の変化だけでなく、心や体の状態も大事。ですので、今後は「肌」の領域だけにとどまらず、もう少し幅広く、多角的なケアができる分野にも事業を広げていく予定です。
また、こういうケアって、効果を感じるためにはある程度の継続が必要になります。でも、日々の忙しさやモチベーションの維持の難しさから、続けられないことが多いです。だからこそ、継続しやすい仕組みを作って、しっかり結果につなげていくことも大切にしたいと思っています。
村山:沖縄に住むことになったのは、実は夫の都合なんです。夫はもともと会社員だったのですが、「医師になりたい」という夢を叶えるために大学に通い始めるようになり、家族全員で沖縄に移住することになりました。
村山:びっくりですよね(笑)。でも、家族みんなにとってすごく良い選択だったと思っています。島の人たちは子どもにとても寛容で、すごく優しく接してくれるんです。一緒に遊んでくれることも多くて、地域全体で子どもを育てているような感覚があります。私にとっては、とても子育てしやすい環境です。
村山:はい。基本的にはリモートワークですが、月に一度は東京に出張しています。仕事の都合だけでなく、やはり対面でのコミュニケーションが持つ価値を実感しているからです。テクノロジーが進化した時代だからこそ、直接顔を合わせることで、関係性がより深まり、信頼感が増すと感じています。
村山:はい、今はとてもバランスが取れていると感じています。ただ、最初からそうだったわけではなくて、試行錯誤しながら辿り着いた感じです。通勤しながら子育てしていた時期もありましたが、やっぱり移動時間など時間に制限が出てきてしまい、仕事の量も質も落ちてしまったことがあって。リモートワークにしてからはバランスが取れてきた感じはあります。
村山:そうですね。産休・育休から復帰する前に、職場の先輩女性と食事をしながら、仕事と子育てを両立する方法について話を聞いたことがあったんです。
そのとき言われた「私たちは、ママとして働き続けるための環境をみんなで必死に作ってきた。だから、あなたにもその環境を守っていってほしい」という言葉がとても心に残っています。
会社って、目指す未来があって、それを実現するための「乗り物」のようなもの。だから、個人の事情によって、みんなで目指す未来が遠ざかるのは、どんな事情であれ正しくないのかなと思います。
急な発熱、学校行事など、子育てをしているとハードルはたくさんあります。でも役割を引き受けたなら、期待される結果は出さないといけない。
先輩と話す前は、どこかで「子育てしながら復帰するんだから」と甘えていた部分があった気がします。でも先輩と話していて、「家庭や子育てって、免罪符じゃないな」と気づかされました。気持ちが引き締まる瞬間でした。
一方で、画一的な業務時間や勤務場所、リソースのなかで、期待される結果を出すのは非現実的だし、苦しくなるだけ。
何があればできるのかを考えて、その環境を自分でもしくは会社と相談して作っていけるといいですよね。
だから、Neautechは、結果を出すプロセスや働き方には最大限柔軟な会社であろうとしています。メンバーからの発信に応じて、雇用形態やポジションを増やしたりはちょこちょこありますね。
村山:そうですね。一方で、全員が同じ優先度で生きる必要もないと思っています。
さきほどの先輩は、自分の給料のほとんどがシッター代に消えるような状況だったそうですが、それでも「仕事が好きだからいいの」と笑っていました。
「でも、優先順位は人それぞれだからね」とも言ってくださって。働くことの優先度は自分で決めていいんだなと気づかされました。
村山:そう思います。子どもがいる、いないにかかわらず、誰にでも大切にしたいことってありますよね。勉強や趣味、家族との時間など、人それぞれ。でも、目指すゴールが同じなら、その道のりは柔軟にしてもいいんじゃないかと思うんです。だからこそ、みんなで話し合いながら、自分に合った働き方を見つけていくのが大切なのかなと。
村山:夫とはとにかく、たくさん話します。「今、何を考えているのか?」を常にざっくばらんに話しているので、会話の量はかなり多いですね。
あと、お互い「諦めないでやりたいことをやろう!」というスタンスなんです。私が「こうしたい」と言えば、夫が「じゃあ、どうやったらできるか?」を一緒に考えてくれるし、その逆もまた然り。お互いの夢ややりたいことを支え合うのが、私たちのルールみたいになっています。
村山:話し合うことは、お互いに心掛けています。夫も一般的には受け入れにくいようなチャレンジをしている立場っていうところもありますからね(笑)。お互いにそこは認め合える仲でいたいと思っています。
村山:一応、スケジュールに「家族タイム」と入れて、会社のメンバーにも共有しているんですが……実は結構、Slackとか見ちゃうんですよね(笑)。ついスマホやPCを触っちゃって、娘に「ママ、また見てる!」って注意されることもあります。
村山:子どもって、親が「自分のために何かを諦めてる」ということに、すぐに気づくと思うんです。それって、子どもにとっては結構ショックなことなのかなと思っていて。だから私は「親だからこうすべき」じゃなくて、一人の人間として、大人としての生き様を見せられたらいいなと思っています。親子というより、人と人として向き合う感覚を大事にしてますね。
村山:とはいえ、たまに「こうあるべき!」って考えちゃう自分もいるんですよね。以前、娘と話していたとき、私はフラットに話してるつもりだったんですけど、「ママはこう言わせたいんでしょ?」と言われて、ハッとしました。たぶん、無意識に「正解」みたいなものがあって、そこに誘導しちゃってたんでしょうね。本当は、私は見守る立場で、成長していくのは娘自身なのに。これって会社のメンバーにも言えることかもしれないなと思っていて。相手を信頼することの大切さを、娘に教えられた気がします。
村山:まさに、そうですね。例えば職場の後輩に対しても、向かうべき方向をちゃんと提示するということ、そしてその人の思いや、得意・不得意が何かということを踏まえて最大限その人が花開きそうな場所に置いてあげることが大事だと思うんです。でも最終的には任せてあげて、見守って、時に一緒に考えるということが、会社のためにもお互いのためにもなるのかな、と。
昔は、目指すべき姿には絶対的な正解があって、誰もがそこに向かって努力することが当たり前だと思っていました。しかし、スタートアップに来てみて、その考え方がちょっと違うことに気づいたんです。個々の成長分野や進め方が違うからこそ、任せて見守ること、一緒に考えることが大切だと感じています。これって、実は子育てとすごく似ているなと思うんですよね。
村山:本当にそう思います。どちらもあるからとてもいい影響があって、成長させてもらっている感じがします。
村山:会社のバリューの一つに「Do The Right Things」という言葉があって、これが私の軸になっています。「自分の心に照らしたとき、今進むべき道はどこか?」「何が正しい選択なのか?」を常に考えて、それに対して嘘をつかない生き方をしたいんです。子育てにしても、仕事にしても、そこをコンパスにして動いているつもりです。
村山:週末や月末に、振り返りの時間をとるようにしています。今自分が感じていることや進みたい方向、ちょっと苦しかったことや嬉しかったことを、ノートに全部書き出して整理するんです。もし「ちょっとズレてるな」と感じたら、そこで軌道修正するようにしていますね。もともと楽天的でいろんなことにトライしたいタイプではありますが、そんなに自分に自信がないほうですし、小さなことを気にしたり、落ち込みやすいところがあるんです。なので、こういった指針があることがコンパスとなり、自分を保っているところもあります。
村山:あんまり立てないですね。どちらかというと、「今の自分の軸がズレていないか」を確認するための時間、という感じです。
あとは、ピアノにハマっていて、その時間がとても気分転換になっています。
村山:そうなんです。子どもの頃のほうが「上手に弾かなきゃ」という意識がありますよね。今はとても自由に、純粋に楽しんで弾いているのでとてもストレス解消になっています。もともとは子どもと一緒に弾くために始めたのですが、自分の方がハマってしまった感じです(笑)。
村山:在りたい自分であろうとする努力をしている自分でいられていることが、私とっては幸せのような気がします。完璧にそうなれるわけではないけれど、その過程が楽しいんですよね。常にその方向に向かって努力し続ける、動き続けることが、私にとっての豊かさかなと思います。家族や仕事など、どれも大事ですが、境目はあまり感じません。すべてひっくるめて、自分が生きたいように生きることが、私にとっての幸せです。何か制限を自分で作って諦めてしまうことこそが、一番幸せから遠ざかる行為だと感じています。
村山:はい、まさに。その壁を作らず、常に自分でチャンスをつかみにいきたいと思っています。変わっていく過程も、すごく楽しいんですよね。探求し続けられることが、幸せな人生だと感じています。
産休・育休をどう捉えるか。それこそ、会社の役割や目指すゴールによって変わってくるだろう。いずれにせよ、互いの理解が必要だろうし、そのフェーズも時とともにそれぞれ変容していくはず。私たちはそれをつい忘れ、感情に身を任せてしまうことが多々ある。
多様な歩み方、進め方、目指し方があるということさえ認識していれば、想像しながら人間関係を紡いでいけるはず。インタビューを通して、ひとつの正解などはなく、「それぞれの答え」を見つけ、その違いを受け入れる柔軟性があることが何よりも大切なのだと、気づかせてくれた。
取材・文/竹尾園美
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