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「世界を舞台に、“幸せの循環”を生むビジネスを」シンガポール在住・フローレンスめぐみさん
シンガポール発ウェルネス&ビューティーブランド「WHITETREE」代表・フローレンスめぐみさんにインタビュー。「WHITETREE」でプロデュースしているハーブティーは、大手デパートや一流ホテル、病院などで取り扱われ、世界6カ国で展開。海外進出支援から、商品開発の監修、ホテルのウェルネスプログラム開発など、事業は多岐に渡ります。めぐみさんが起業した理由、そして今後目指すもの、本質的な幸せや豊かさについてなど、ビジネスだけではない人生論について、お話を伺ってきました。
2025.04.16公開
フローレンスめぐみ
美容健康ブランド「WHITETREE HEALTH AND BEAUTY」代表取締役/ブランドプロデューサー。イタリアデザイン学校を卒業後、15 年以上にわたり資生堂、サッポロ飲料、グリコ食品など大手メーカーのビジュアルデザインを手掛けた実績を持つ。2018 年内閣府「日本とアジアを繋ぐ日本人女性起業家」に選出。自身のブランドホワイトツリーは世界6カ国でグローバルに展開。その経験を活かし、日本から海外進出を目指す企業の戦略立案〜輸入・販路開拓サポートも行っている。 2021年には、自社商品を体験できる場所として、シンガポールにホワイトツリーヘアサロン、カフェ、ネイルサロン、セレクトショップを開店。現在は、日本と海外を繋ぐ富裕層向けインバウンド等のビジネスも進めている。
めぐみ: イタリア留学後にデザイナーとして東京で働いていましたが、パートナーと共にマレーシアに移住することになり、それまで築いてきたキャリアを手放して新天地での生活に意気揚々と飛び込んだのですが、残念ながらパートナーとすぐに別れることになってしまったんです。家族も友人もいなかったので、異国で居場所をなくしたようで、自分のアイデンティティーを失った気持ちになりました。一人になり、行き場をなくし、自己肯定感も低い状態で、これからの人生をどのように生きるのか自分でもわからない時期をマレーシアで過ごしていました。
日本に戻るという選択肢もありましたが、そのときの私は「誰も私を知らない場所で、ゼロからスタートしたい」という気持ちが強くて。そこで、縁もゆかりもないシンガポールへ単身移ることにしました。それ以前は過去の自分と比較ばかりしていたので、「何をしてきたか」ではなく「どう在りたいか」を大切にしたいと思ったんです。過去の問題や自分自身の迷いばかりで心が一杯になっている自分が嫌で、これからは“今”と“未来”の話をしていこうと心に決めました。
めぐみ:「何をしたいか?」と考えたとき、私自身がハーブに助けられた経験があったので、「植物の力で人を幸せにしたい」という想いが湧きました。
もともと趣味で海外から植物原料を取り寄せ、ハーブティーやボディーオイル、ルームスプレーなどを作っていたんです。シンガポールでゼロから再スタートすると決めたときも、スーツケースにはたくさんのハーブを詰め込んでいました。
めぐみ:もともとハーブに興味を持ったのは、自分の体調不良がきっかけでした。以前、東京でクリエイティブデザイナーとして働いていたのですが、無理がたたって体調を崩し、仕事を辞めることになってしまったんです。
デザインの仕事は大好きで、やりがいもありました。でも「誰かに喜んでもらいたい」という気持ちよりも、「キャリアを築かなくちゃ」とがむしゃらになっていたんですよね。そんな働き方のなかで、自分のケアがまったくできていなかったことに気づきました。特に、日々の生活に“植物の香り”を取り入れることで、不眠症が改善し、そこからハーブやアロマセラピーを取り入れるようになったんです。
めぐみ:はい、少しずつ心も体も整っていきました。以前は、心と体がバラバラになっているような感覚だったんですが、それが少しずつ調和していく感じがあったんです。
もちろん、すべての人に同じような効果があるとは限りませんが、私にとっては本当に救いになりました。だからこそ、「同じように助けられる人が増えたらいいな」という想いから、ブランドを立ち上げたんです。
めぐみ:まず、有名デパートのマタニティサロンへ直接営業に行きました。
「妊娠中って、むくみや吐き気などいろんな不調が出るじゃないですか。それに合わせてカフェインフリーの症状別のメディカルハーブティーを作れたらいいと思いませんか?」と提案したら、「それ、いいね!」と言ってもらえて。
まだ商品も何もなかったのに、後日、私がブレンドしたハーブティーをサロンに置いてもらえることになったんです。私の英語は拙かったし、すごくドキドキしましたが、思い切って行動して本当に良かったですね。
めぐみ:はい、このスタイルは今でも変わらず、基本的には自分が何をしたいかよりも、相手のためにどうしたらベストなのかを考え、提案することを軸にしています。
めぐみ:本当に、ひたすら開拓していましたね。相手がどうしたら喜ぶか?ということを第一に考えながらプレゼンしてきました。それは今も変わりません。外ではきれいな格好で落ち着いた顔をしていますが(笑)、裏では力仕事をしたり、足を使ってさまざまな場所に出向いたり、かなり泥臭く生きています。それが現実です。でもその結果、カペラホテルや一流ホテル、大手病院やクリニックなど、今では多くの施設やお店に置いていただけるようになりました。例えば、マタニティの病院で出産後、ドクターから「これを飲んでください」と出されるのが、うちのハーブティーだったりするんです。海外で日本人が働くと、どうしても日本人同士でビジネスが進みがちですが、私は、割とシンガポールの企業とメインでやり取りしていました。
めぐみ:いえいえ、私は駆け引きが得意ではなくて、クライアントに「こういうやり方もありますし、こういうこともできますよね」と、その時のアイデアを全部出してしまうんです。もちろん商談では交渉術もありますが、私にとって大切なのは商談を成功させるためのテクニックよりも、相手のために本当に良いものを提案することです。ビジネスの攻略法として正解かどうかは分かりませんが、そういった部分は起業して10年経った今も意識をして続けています。
めぐみ:事業は大きく分けて3つあります。ひとつは前述の小売事業で、ハーブティーをホテルや病院、企業様に卸していくという展開です。
二つ目は、海外進出支援事業です。日本企業が海外に進出しようとする際に、B to B特化のコンサルティングや自社店舗や売り場を使ったテスト販売やプロモーション、海外市場を視野に入れた商品開発の監修などを行っています。小売事業を続ける中で、日本とシンガポールの流通ルートが確立できたことや、ローカライズの方法についての知識が増えてきたことがきっかけで、この事業を始めました。
三つ目は、自社店舗の運営です。2021年には、自社商品を体験できるカフェ、ヘアサロン、セレクトショップの3つの業態をまとめた体験型コンセプチュアルストアをシンガポールにオープンしました。また、2024年からネイルサロンも併設しています。
めぐみ:そうなんです。だからこそ、その時期に作りたかったんです。コロナで人と会わなくなり、人や社会との繋がりが薄れてしまっていた。私自身、ハーブの事業を始めたきっかけは人との繋がりを取り戻したいという想いからでした。そんな経験があったので、コロナ禍でこそ、オフラインで“繋がる場所”を作りたいと思いました。
めぐみ:はい。飲食店もヘアサロンも経営は未経験で、わからないことばかりでしたが、とにかくやってみようと思い立ち、頼りになるチームメンバーと共にアイディアを出しながら、約2カ月半で開店させました。大変でしたが、新しいコミュニティの場を作ることができ、これには大きな価値があると思っています。
さらに、ひとつ屋根の下でカフェ、ヘアサロン、セレクトショップを一体化させることで、独自のビジネスモデルを構築し、新規参入の事業でも順調に回すことができたと思います。
めぐみ:エステサロンなども考えましたが、規制も多く、そのタイミングではむずかしかったことと、シンガポールではカップルでヘアサロンに行く人が非常に多いんです。日本ではあまり見かけない光景ですが、ここでは男女が一緒にサロンに行くのが普通なんですね。うちのサロンでは、女性が髪を切っている間に、パートナーや子どもがカフェでお茶をしながら待つことができます。これは、ローカルの文化や習慣をよく理解しているからこそのアイデアだと思います。
めぐみ:ショップでは海外展開したい企業さんの商品を置くこともできます。店舗をテストマーケティングとして活用していただくためです。年間単位など長期だと負担になると思いますが、うちでは3カ月間など短期間でのテスト販売を可能にしているので、低価格なプランで提供できます。日本とシンガポールの架け橋になっていきたいというのも、私達の目標です。
めぐみ:うちの会社では「CYCLE OF HAPPINESS」(サイクル・オブ・ハピネス)というミッションを掲げています。これは、幸せの循環を作るという意味です。私自身も幸せになることがひとつの目的ですが、もっと大きな目標は、自分が作ったものでみんなが幸せになってほしいということです。関わるすべての人が幸せになってほしい。
これは当たり前のように思えるかもしれませんが、実際にはその循環がうまくいっていないビジネスも多いと思います。私達は、生産者や工場の方々が搾取されることなく、みんなが豊かであってほしいという気持ちを持っています。
めぐみ:また、「RE-CONNECT」(リコネクト)『再び繋がる』というテーマも大切にしています。お茶の時間を提供することで、人、社会や自然、自分自身と繋がっていることが重要だと考えています。これらの考え方は、ウェルビーイングやサステナビリティという言葉に集約されると思うのですが、実はこうした理念が世の中で広まる前から存在していました。
めぐみ:はい。就労支援施設で製品のラベリングをお願いしています。これは“かわいそうだから”という偽善的な理由ではなく、雇用を生むことでやりがいや自己肯定感が高まったり、社会との繋がりを感じていただければと思っているからです。
めぐみ:覚悟と根性を持っている人。言葉だけでなく、実際に行動に移している人にこそ力を注ぎたいです。やってみたいと言いながらも、実際には行動に移せない、決断できないという人には、どうしてもサポートしづらいですね。私たちも一歩踏み出す勇気を持ち続けているからこそ、同じような覚悟を持つ人を応援したいと思っています。
めぐみ:心身ともに健やかな状態でいるためには、マインドとライフスタイルの二つの軸を大切にしています。まず、マインドの部分でいうと、物事を俯瞰で見るように心がけています。スタートアップや海外進出など、すべてが最初から順調にいくわけではないと思っています。だからこそ、トライ&エラーを繰り返しながら進んでいくのが常で、いろんな問題に直面しながらも解決していく毎日です。リーダーとしては、いちいち落ち込むのではなく、その経験を学びに変えていくことが大切だと感じています。もちろん、落ち込むこともありますよ。でも、一瞬落ち込んでもすぐに切り替えて行動に移すようにしています。感情に振り回されず、自分を俯瞰的に見ることで、ネガティブな感情が消えていくんです。
めぐみ:そうですね。俯瞰的に見る、というのはビジネスを始めてから自然に身についたものです。もともとは感情に流されやすかった部分もあったのですが、ネガティブな気持ちを表に出さないためにも、客観的に自己分析をする癖がついたんだと思います。そうすることで、冷静に前進できるようになりました。
めぐみ:ライフスタイルに関しては、リフレッシュの時間を大切にしています。“マインドフルネス・ドリンキング”という形で、五感をフル活用してお茶を飲むことを意識しています。香りや音を感じながらお茶をいただくことで、体がほぐれ、忙しい日常でぐるぐるしていた思考が落ち着いていきます。それと、平日は常に忙しいので、週末は何もしない時間をしっかりと取るようにしています。愛犬と遊んだり、公園を散歩したり、何気ない時間を大切にすることが、私にとっての幸せな瞬間なんです。
めぐみ:そうですね。とても大切です。とはいえ、悩みの根幹が何かによりますよね。漠然としたストレスを見て見ぬふりをしていると、結局心に負担がかかってしまう。何か解消しなければならないことがあるのであれば、休みだろうがなんだろうが、まずその問題を解決してしまった方がいいと思っています。
めぐみ:海外で事業をしている中で、日本の文化が主に食の分野で注目されているのを感じています。でもそれ以外にも日本の素晴らしい地域や商品、そしてそれを支える文化がたくさんあるので、それらをもっと世界に紹介していきたい。今後は富裕層向けのインバウンドビジネスももっと広げていきたいと思っています。
さらに、ハーブを通じて、より多くの人々、そして世界中の人たちにその魅力を伝えていきたい。とはいえ、「いいものを届けたい」「世界中に広めたい」と思うとき、資金力がネックになってしまうのが現実です。多くの人がそこで諦めてしまうのが現実なのですが、私達は諦めたくありません。
そのため、ハーブを軸にしながらも、ウェルビーイングやサステナブルをキーワードにした新しいアプローチを考えています。施設やホテル、企業に対して、商品プロデュースやサービスプロデュースを行い、“体験”を生み出すことで、さらに事業を拡大していけると信じています。これが次のステージのビジョンですね。
めぐみ:私はあまり事業と個人を分けていなくて、同じ指針です。自分一人の喜びだけではなく、まわりの人々と一緒に喜びを分かち合い、共に成長していくことが私にとっての最大の幸せ。デザイナー時代は、自分自身の自己実現がライフワークでしたが、今は他者と共有する喜びを見出すことが重要だと感じています。もし現在の事業を離れたとしても、投資家として誰かの挑戦を応援し続け、社会とのつながりを大切にしたいと思っています。
めぐみ:目標設定を2つの軸で考えることです。数字的なゴールは当然大事ですが、それと並行して、本質的な豊かさや生きがいという軸も持つことが大切です。もし数字的な面でつまずいたとしても、内面的な豊かさがあることで、その困難も乗り越える力になります。お金は必要不可欠ですが、心の豊かさとバランスを取ることが、長期的に見るともっとも大切だと思っています。
めぐみ:私が考えるリーダー像は、何より「多様性を受け入れ、共存する」ことだと思います。特に海外での経験が大きく影響していますが、日本では当たり前とされていることが他国では全く常識ではないことも多いんです。そのため、スタッフに対しても、「普通は」とか「通常なら」といった言葉を使わないようにしています。常識に縛られすぎると、他国の人々と仕事をするのが難しくなります。相手を知ることで、お互いの違いを尊重し、無用な衝突を避けることができますよね。
めぐみ:そうですね。次世代のリーダーは、まず自分の信念や考えをしっかりと伝え、みんなを巻き込んで指針を示すことも重要です。しかし、それだけではなく、多様性を理解し、その違いを受け入れることが何より大切だと思います。人それぞれの人生をよりよくするために、広い視野で包括的に考えることが必要だと感じています。社会も、自分自身も、そういったマインドを持つことで、他者とのつながりが深まり、より豊かに生きられるのだと思います。
「誰も自分のことを知らない土地でゼロから始める」。何者でもない自分の挑戦。日本ならまだしも、これが国外となると、相当な努力や想いがなければ事業を成功することはできていないだろうということは、やすく想像できる。「幸せの循環」は、まず自分が幸福でなければできないと思う。きっとめぐみさんは、その豊かさを自分の手で見つけたのだろう。
ビジネスも人生も、きっとそれは同じ。シンガポールと日本の架け橋として活躍するめぐみさん。今後の活動にも注目だ。
取材・文/竹尾園美
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