Interview
Wellness
「温めすぎて噴き出たダンスへの想い。挑戦することで生まれるエナジーとは」ダンスWS主宰・ERIKOさん
♯グッドバイブスウーマン Vol.5。今回ご登場いただくのは、骨格メソッドの施術や「挑戦を応援し合う」をテーマにダンスWSを開催している小黒英理子さんこと、ERIKOさん。10代から続けてきたダンスを10年前に引退し、ブランクを経て40代の再挑戦。その挑戦は、どのようなバイブスを生んでいるのでしょうか。
2024.06.14公開
ミュージカル好きが高じてダンスを始めたというERIKOさん。ダンスに情熱を燃やし、ダンスに命を懸けてた10代、20代。しかしあるとき、そんなに好きだったダンスを諦めることに。それから約10年がたち、再び始めたダンス。ERIKOさんが届けたいのは、ダンスのその先にある、もっと深く、大きな想いだということが、インタビューを通して感じられました。
明るくノリがよく、インタビュー中に何度も笑わせてくれたERIKOさん。朗らかな時間のなか、さまざまな葛藤、覚悟、これから伝えていきたいことなど、多くのことを語ってもらいました。
ERIKO:再開しようとは思っていなかったんです。ダンスに命を注ぎ込んでいたからこそ、一度辞めたのに軽はずみな気持ちでは戻れないと思っていました。変なプライドもあったのかもしれません。辞めたあとは、それ以上に情熱を燃やせるものを見つけようと必死でした。
でも本当は、ずっとダンスがやりたかった。心の奥底ではやりたくてやりたくて仕方なかったんです。だけど、その気持ちに蓋をしていました。だから「ダンスがやりたい」だなんて誰にも言えなかったし、自分自身にも嘘をついていました。10年もの間、その想いがフツフツと煮えたぎっていて、ついに鍋から一気に噴き出した感じです。長いこと沸かしていたので鍋もだいぶ変形しちゃって、蓋をしようにもできないくらいあふれてきて止まらない、みたいな(笑)。ずっと我慢してきたダンスへの情熱が、ほとばしってしまったんです。
ERIKO:2023年はちょうど、仕事に対して悶々としていた時期でした。骨格メソッド(機能解剖学に物理の視点を加えた理論で、骨格を本来の構造に戻すメソッド)のパーソナルセッションをコロナ禍に始めたのですが、最初の2年くらいは集客もできて、ノリにノっていたんです。でも3年目になってはじめの勢いがなくなってきて。骨格メソッド自体はとても素晴らしいものだだし、今後も続けていきたいと思っているけれど、いまのやり方を続けるだけではダメだと限界を感じていました。どんどんお金も目減りしていくことに不安を感じ、メンタルがガタ落ちの状態だったんです。
そんなとき、友人と2泊3日の韓国旅行に行く予定があったんです。「こんなときに旅行している場合じゃないのでは?」と直前になって悩んでいました。とはいえ、そのときはすでに出発の1週間前。キャンセルも効かない時期だったので、お金を無駄にするわけにもいかず、思い切って韓国へ行ったんです。一緒に行った友人はオンオフの切り替えが上手な子だったので、旅行をしている3日間はしっかりと遊び倒しました。仕事のことなど、ほかのことを考える隙もないくらい全力で遊んだら、何かが自分の中で吹っ切れたのか帰国して、その数日後には「ダンスのWSやります!」とインスタのストーリーにあげていました(笑)。
ERIKO:本当にそう。私は昔から、迷いなく直感で新しいことを挑戦したときは絶対にうまくいくんです。反対に頭の中でこねくり回してから始めたことは大体うまくいかない。「こっちのほうが得意だし」とか「役に立ちそう」といった損得勘定で選ぶと結局続かないんです。最初にダンスを始めたときも直感でした。小さい頃からミュージカルが大好きで、歌と芝居、ダンスをやってみたけれどダンスが一番苦手だったんです。でも私が選んだのは迷わずダンス。「これだ」とピンときた。これまでの人生で積み重ねてきた経験上、この感覚で始めたものは間違いないと確信しています。ダンスの再開も、同じような直感がありました。
ERIKO:表向きは腰痛などの身体的なことや、父親が亡くなったことを理由にしていました。でも本当の理由はメンタルの問題。ダンスは大好きだったけれど、自分に限界を感じていたんです。当時の私は人と自分を比較してばかりで、自分に足りない部分やダメなところばかりにフォーカスしていました。自分の中で「こうしなければならない」という決め事が多く、それができない自分を責め、どんどん自分を追い詰めてしまっていた。メンタルが崩壊して、発狂しながら部屋のなかで物を投げていたことも。
ERIKO:振り付けもできなくなって、スランプにも陥っていました。いま思えば、新しい振り付けができないなら昔に振り付けしたものを棚卸ししてもよかったと思うんです。そんなの、誰も責めないし、よくあることです。でもそれすら許せなかった。だから、逃げたんです。もちろんちゃんとした形で辞めましたし、誰かに迷惑かけたわけじゃないんです。でも、私は私から逃げた。あんなに大好きだったダンスを、自ら諦めたんです。
ERIKO:完璧主義者だし、理想が高かったんです。「カッコよくてパーフェクトな人間」を本気で目指してました。たとえば、野球でいうと大谷翔平選手みたいな。「いや、なれないだろ」っていまなら自分で自分に突っ込めるんですけど(笑)、当時はいたって真面目。いわゆる“スター”と呼ばれるような人になろうとしていたんです。とにかく常に「憧れの誰か」になりたかった。でも実際の私はちょっと抜けているし、いつもなんか惜しい感じになっちゃうタイプ。当時の私に「キャラのすり合わせお願いしま〜す」と言いたいですね(笑)。
ERIKO:はい。いわゆるジムにいるような運動指導者です。正直なところ、この仕事をやりたかったというよりは、「とりあえず働かないと生活できないから」という理由で始めました。8年くらいは続けましたが、これも最後のほうは限界を感じていて苦しかったですね。「人は何もしないと退化する」という思い込みがあって、休みの日どんなに疲れていてもジムに行って体を鍛える日々を過ごしていました。でも40歳手前になってふと、「この生活が一生続くのだろうか」と想像したらゾッとしたんです。それに、年齢とともに体がどんどん大きくなるのも感じていて、自分の身体に自信が無くなり続ける日々でした。筋トレもしていたし、食事にも気をつかっていたし、こんなに努力しているのに結果が出ないという焦りもありました。食事も楽しめず、むしろいつもちょっとイライラしながら食事をつくっていたり…。そんなとき私を救ってくれたのが「骨格メソッド」でした。
ERIKO:もともとは湘南に住む友人が骨格メソッドのパーソナルセッションを始めていたんです。それを知った私のパートナーが、ある日その方から骨格メソッドの話を聞いてきて、帰ってきて私に「運動とか本当はあまりしないほうがいいらしいよ」と言ってきたんです(骨格メソッドは過度な筋トレなどはあまり推奨していない)。深い意味はなかったと思うのですが、それを聞いた私は「私の仕事を否定された!」と思ってしまったんです。私は運動指導者なのに、「運動しないほうがいい」だなんてありえない、と。それから3カ月、その友人のインスタを一切見ることができなくなってしまった。その友人は何も悪くないのに、そのときはメンタル崩壊しているから、頭おかしいんですよね(笑)。だけどあるとき、彼女のインスタのストーリーがたまたま流れてきて見てしまったんです。そして、その10秒のストーリーが流れたあと、なぜか「あ、私もやろう」と決めていました(笑)。
ERIKO:はい。即効で貯金を確認してましたから。いくらお金があれば、資格が取れるのかなって。骨格メソッドを学んだことで、私たちの体は重力の力を味方につける事で、過度に何かしなくたって健やかにのびのびと生きていれば、いい状態でいられるということを知ることができました。それまで、「常に何かしていないとどんどん退化する」と感じていたし、少しでも休もうものなら「だから私はダメなんだ」と自分で自分を苦しめていました。トレーナー時代は誰かを指導していても「常に頑張り続けないといけないんだよ」というエネルギーで言葉を発していたと思います。もちろん、実際はそんな言い方はしていないんです。でも、そういう“感覚”で話していた。そんな言葉の重いエネルギーの返り討ちにあっていたので、どんどん自分を辛くしていたと思います。
ERIKO:顔も体も変わりました。骨格は、地球上の重力に任せるだけで本来はきちんとバランスが取れてくるもの。体の土台である骨格を正しい位置に戻すことで、自然と美しく整っていくのが骨格メソッドです。土台が整ってないのに筋トレやストレッチをしても、建物でいうと柱が崩れているのに外壁をいじっているようなもので、すぐ歪んで崩れてしまう、という理論です。
体が変わったことで、意識も変わりました。いつも誰かになりたかった私が、ありのままの私を受け入れられるようになっていった。それがどんなに救いになったことか。いまでも調子悪いとき、体が痛いときもあります。でもそれすら昔は隠してました。パーフェクトじゃないといけない、と思っていたから。でもいまは素直に言えます。40歳を過ぎて、はじめて「誰かにならなくていい」という安心感を抱きました。
ERIKO:最初は「挑戦を応援するWS」だったんです。でもWSを重ねるうちに、一方的なものではなくみんなが挑戦を“応援し合う”循環を作っていきたい、と思うようになったんです。
ERIKO:まさに。ダンスを学ぶ、ダンスを楽しめる場はたくさんあると思います。でも私は、ダンスの先の、その先の先くらいにある価値を提供したいと思っているんです。このWSに参加した人はもちろん、参加したメンバーを見て勇気が持てたとか、明日から頑張ろうと思えたとか、そんな人が少しでもいてくれたらうれしい。私にとってダンスは最も情熱を燃やせるものだから、ダンスを手段としているだけなんです。
実際に、WSの様子を流しているインスタのリール動画を見て、「会社を辞めるかどうしようかでずっと悩んでいたけれど、インスタを見て転職活動を始めました」と連絡くれた方がいて。すごくうれしかったし、メンバーのみんなにも「みんなの挑戦は誰かの勇気に絶対なってるから!」と伝えています。
ERIKO:私自身、ダンスは40歳すぎてからの再挑戦。そんな私の挑戦するパッションを感じてWSに参加してくれた方もいます。でも何よりうれしいと思ったのが、インスタのリール動画で参加メンバーが踊っているのを見て、ダンス未経験者の方から「私も踊ってみたい」とメッセージを頂いたり、先日参加してくれたダンス未経験のメンバーのイキイキと楽しそうに踊る姿を見た現役のダンサーの方から「ダンスってもっと楽しんでいいんですね」とメッセージを頂いたりしたこと。
ダンス経験者が未経験者に教えるというのは普通のことだけど、その一般的な関係性だけでなく、年齢もダンス歴もさまざまなメンバーが集まり、お互いの挑戦を応援し合い、さらにはインスタを見てくださっているまだ会ったことのない方たちまでもが応援し合う循環に参加してくださっているんです。そういった循環をこの先も生んでいけたらいいなと思っています。
ERIKO:そうなんです。私がトップにいて、その下にメンバーがいるという構図ではなく、丸い世界でありたいと思っています。ただ、どんなに完璧じゃなくても私がその円の中心にいるという覚悟は必要だと考えています。そのまわりにメンバーがいて、そのまわりにまだ見ぬ人々がいる。そんなイメージです。
挑戦せずに上から腕組みしながら「頑張って〜」と応援したところで、私は挑戦してないから“応援はし合えない”ですよね。それまでの私はそうだった。できない自分を見るのが怖かったから。でも、本当は頑張りたかったし、挑戦したかったんです。だから挑戦する覚悟がある人に参加してほしいし、私も挑戦し続けたいと思っています。
なので、「ダンスの基礎を教えてほしい」という方がいたら「私じゃないほうがいいと思います」と正直に伝えます。「初心者でも大丈夫ですか?」というDMもよくいただくのですが、「絶対大丈夫です」とは言いません。振り付けもそれなりに難しくしているし、初心者用のクラスということではないんです。だからすぐにできないからといって心が折れてしまう人はやめたほうがいいと思っているので、それをちゃんと説明しています。それをわかったうえで「挑戦したい」という方はどんな人でも全力でウェルカムです!
ERIKO:女性だけでつくる空間って面白くないですか? 男性がダメとかではなくて、女性が持っている特有のエネルギーってすごい力があるなって思ったんです。
ERIKO:男女平等ってそもそもおかしいですよね。同じのはずがないですし、それぞれの役割があるのだと思っています。でも実は数年前まで、男性のことを毛嫌いしていた時期がありました。トレーナー時代も女性限定にしていたのですが、そのときは単に男性がイヤだったからなんです。
私のパートナーは女性なのですが、当時は女性が好きという確信がなくて、とにかく男性がイヤという気持ちがあり、排他的な要素で女性限定にしていた。ダンサー時代は男性を蔑むような振り付けばかりつくってましたから。いまはそうではなくて、「女性が本来持つポテンシャルに可能性を感じている」という感覚です。
ERIKO:心から、「私、生きててよかった!」と思うことが増えました。これは、この10年間なかなか感じられてこなかったこと。ダンサー時代は感じられていたんです。その感覚を再び味わえて本当にうれしい。
ERIKO:私にとって幸せとは、「本当に人が変わる瞬間を見たとき」なんです。人が持つ無限大の可能性のようなものをこの目で見たとき、「いま死んでもいい!」と思えるくらいの多幸感なんです。先日、ダンスWSのDAY2だったのですが(WSは全2日構成)、数週間のメンバーの進化ぶりに感動して、まさにそんなことを感じた日でした。
ERIKO:そう。“この目”で見たいんです。見知らぬ誰かのことを「どうか幸せに」と祈りつづけられるほど、私は寛大ではないんです。感動的な場面は、肉眼でしっかりと見たい(笑)。大好きなダンスを通して誰かの人生にきっかけをつくれたとしたならば、それは何にも変えがたい財産だと思っています。
ERIKO:「好きなことを仕事にする」といいますけど、そうでないといけない事は決してないと思うし、「遊ぶように働く」とよく聞きますが、私はそういう感覚とは少し違うんです。好きは仕事にしているけれど、プレッシャーはあるし、焦りもあります。だからオンオフの切り替えはちゃんとしたいというタイプです。
ただ最近思うのは、もしこの先何もせずとも死ぬまで生きられるくらいのお金が宝くじで当たったとしても、私は間違いなく働いていたいということ。若い頃は誰かに養ってほしいと思っていました。でもいまは、人の成長、変化の瞬間を目の当たりにするのが生きがいと感じている。それってただ友達とお茶しててもなかなか感じられないじゃないですか。やっぱりそれは、本気で向き合っていないと味わえない。だから、それが味わえるならこの先も本気で向き合える仕事をしていたいと思います。だからこそ自分のやっていることは安売りせず、ちゃんとそれに見合った価値は設定したいと考えています。
ERIKO:2年前に、洗濯物を干していたら急に降ってきた言葉があるんです。それは、「今世で小黒英理子(私)をクソほど幸せにしたい」ということ。“クソほど”なんて普段は使わない言葉なんだけど、私にとっては最上級ということなんです。これまで、自分のことを無視して置き去りにしてきたけど、「これからはコイツのことを幸せにしてやりたい」みたいな。自分自身がイケメン彼氏のような感覚なんです。自信がなくてもいいし、不安があるまま進んでもいい。自信満々で、スターと呼ばれるような人になるのは、来来世くらいでもいいから(笑)。そんな自分を“クソほど”幸せにする。それが、人生のモットーです。
人は、「人のために」何かをすることで、喜びを感じる生き物です。でもそれは、自分を“クソほど幸せにする”ことで、ようやく自分以外の誰かにエネルギーを分け与えることができるのではないでしょうか。さまざまなことを経験し、そのことが腑に落ちたからこその再挑戦だったのかもしれません。どんな状態でも自分のことを認めることの大切さを改めて感じた取材となりました。
取材・文/竹尾園美
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