今でこそ、性に対する情報は割とオープンにされ、女性でもだいぶ話しやすい社会になりましたが、今回おすすめしたい映画「The 'Art of'Loving(アート・オブ・ラビング)」は、主に1970年代が描かれています。しかも、社会主義政権下のポーランドが舞台。産婦人科医として患者のあらゆる悩みに接して来た一人の女性が、タブーとされていた(しかも女性が語るなんて)性の話をまとめた「愛と性の指南書」を出版するために奮闘した、実在する女性の自伝的映画です。
筆者は、性に関して日本はこの令和時代でもかなり後進的と感じており、また誤った情報も多く、人に打ち明けづらく悩む女性がいるようにも思え、この映画にとても共感したところがあります(時代は30年以上経っているのに…)。男性主導とされてきた性の話に対し、そして本来女性も得るべき性による幸せについて熱い想いで向かい続けた女性に、エンパワメントされた1本です。
日本語字幕は現在Netflixで観ることができます。
主人公の女医は、家族計画協会クリニック産婦人科医のミハリナ・ヴィスヴォッカ。産婦人科医だから、ということでなく、夫と出会った時も、池で泳ぐ彼の姿を興味津々に見つめていたミハリナ。しっかりと興味を持ち、運命的に出会ったその夫と営みに励みつつ、ベッドの中でも嫌なことは嫌としっかり言える女性です。
この時点で、自分の意見をなかなか言えずに相手に遠慮したり、我慢したりする女性も多いのではと思います。なぜ伝えた方がいいのか、それは女性だけが我慢することではないというのを、ミハリナは、もちろん婦人科医の観点からもわかっていたとも思いますが、おそらく彼女の曲がった事が嫌いな元々の性格からのような気がします。
ネタバレになってしまうのであまり多くは語りませんが、その後ミハリナは普通では考えられないような形で母親になります。また、そのタイミングで、彼女がメインで行っていた女性器の研究へも凄まじい執念で向き合い、人の手を借りながらも、母親としての愛情を持ちながら仕事に励み続けます。しかし、彼女のその強い情熱や思いは周りへは届かず、家族と離れざるを得ないという辛い体験をします。それでも、彼女は場所を変え、更に多くの女性患者の手助けとなるべく働き続けるのです。
そこで、ミハリナは運命的な出会いを果たし、その彼との逢瀬でオーガズムを得ることになります。しかし残念ながら、その彼との関係は人には話せない秘められた恋でした。けれども、女性がオーガズムを得て、愛を感じられることがどれだけ素晴らしいことなのか、ということを実感します。そのことは決して恥ずかしいことではなく、むしろきちんと多くの男女が理解し、女性がそれを得られるようになることで幸せになるということを伝え続けるべきだと確信するのです。
これは、様々なことを支配され生きづらかった時代と国の、女性の解放を性の観点から訴えていったことでもあります。ただセックスが大事ということではなく、どう女性として男性と対峙し喜びを得るか、という「女性の人生」を大切にすべき、と伝えることと同じだったのです。
そして、女性たちを救いたいという思い一心で、ミハリナは産婦人科医という立場で、「愛の技法(The 'Art of'Loving)」という本を出版することを心に決めます。男性主体で行われている(きたとされる)性行為を、愛情を持ちお互いでリスペクトし合いオーガズムを得る幸せを説く内容は、もちろんこの時代はタブーであり、そう簡単に出版することはできません。異端児、変態扱いは当たり前。男社会の中でも、めげずに何度も何度も、出版できるように訴え続けていくのです。
このあたりのシーンは、いかに、当時の社会主義体制でどれだけ女性の存在が軽んじられていたかが伝わり、同じ女性としてはとても辛く、怒りをも感じます。けれど、彼女のまっすぐさ、一生懸命さには本当に胸が打たれます。周りの女性のためにというその気持ちは、本人が一番辛い体験を乗り越えつつも明るくいたからこそのもので、この姿にエンパワメントされない女性はいないと思います。
いかがでしたか?正しい性教育の必要性を訴えた一人の女医の戦い、というだけでなく、そのことが今を生きている私たち女性にとって、とても重要な行動を取ってくれていた人だったということがわかると思います。行ってきたことがどんな内容にせよ、自分の壮絶な辛い体験を乗り越え、多くの人を救いたいという一心で突き進んでいける女性の強さと勇気は、なかなか真似はできないという人もいるとも思いますが、見習いたい点は見つかる作品だと思います!
筆者個人としては、日本でももっと、オープンに女性が性について語らい、すべての人が幸せを見出せるものとなるよう願います。
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